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小説:七夕牡丹餅目次
この小説は、「七月七日に七夕小説を更新するぜ」と宣言してから
一年にわたり細々と予告編を重ねて、来るべきその日に備え
そして2012年7月7日に更新を行ったしろものです。

色々とコンセプトを込めて描いた実験小説の体を為していますが
なにぶん悩みフルスロットルな時期に書いたものなので
かなりの念、願いが込められていたりしますわけです。

そんな思い入れも込めて、小説「七夕牡丹餅」
予告編と合わせてお楽しみいただけたら幸いです。


予告編「七夕牡丹餅2011
予告編「十五夜夏月様
予告編「ハロー イン ザ ナイトメア
予告編「クリスマス アライブ
予告編「七夕前夜の笹乃葉戦火


本 編「七夕牡丹餅2012


あとがき「さらばだ野良の血

悪趣味なサスペンス気どりなどもはや用はない。
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2012/07/22(Sun) | 小説・七夕牡丹餅 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
さらばだ野良の血。進化の岐路は何処に。
さながら咎負い。その罪を償うべきは、誰だ。
ハナから虎の威。かと言って女狐を気取るわけでもない。
我が儘戸惑い。そんなことはわかっている。
七夕牡丹餅。願いとは関係の無いところで明日は進む。

そういうわけで、完全オリジナル小説、
七夕牡丹餅。いかがだったでしょうか。
まぁたいして隠すほどのこともないですし、
清々しく生々しい解説しちゃいましょうと思います。

以下、あとがきにかえて。
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2012/07/08(Sun) | 小説・七夕牡丹餅 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
七夕牡丹餅
七夕の夜に捧げた願いは叶うという。
もらえますように。なりますように。あれますように。
まるで自分を励ますように、ただひたすらに願いを吊るす和の国の営み。

たとえばとある家には、呪いのようなしきたりがあって、それに沢山の人が踊らされて。
もしかしたら誰かが全ての解決を願い、笹に願いを吊るしたのかもしれない。
どうか誰か、この出口の無い不幸の因縁に蹴りをつけてくれ。
どうか誰か、それぞれの思惑が引き返せないところまで来た世界に終わりを告げてくれ。
どうか誰か、誰か。誰か!おれでは無くわたしでも無い、あなたのような誰か!!

そうして願いが叶ってしまった時、至る失望はいかほどか。
もちろん人によってはゼロであろう。
だが、しかし。
自身がその他大勢であることを自覚させられて、それを屈辱と思わぬ人など。
人とはいえない。木偶か、それ以下のナニカ。少なくとも、無価値。

どこかで確かに願いは叶う。叶っただろう。
だがそれは、笹に願いを吊るしたからでは無い。
それはどこかの誰か、だけど確かに存在したニンゲンの意志と行動、その結果。

世界は決して壊れてしまったりしない。
このイカれた世界が平常運転で、何もしない人に発言権など本来あるはずもなくて。
ただ、未来を享受することしかできないわたしは、誰に文句を言えばいいのだろうか。

このタナボタで掴んだ未来の価値は。

これは物語というよりも後日譚に近いなにか、だ。
かつて織姫と彦星になぞらえた因縁に踊らされた人と、それを解決したありがちな奇跡。
どこかの誰かがもたらした、完璧で美しい構図。全ての伏線を回収した美しい着地。

そうして全てに蹴りがついた、その先の未来で。

何もできなかったわたしは、脇役どころか背景ですら足り得なかったわたしは。
これから先の人生でもずっと、この敗北感を湛えて生きていけばいくしかないのかな。
ないのかな。ないのかな。ないのかな。ないんだろうな。

いやだな。苦いな。それは、いやだな。



七夕牡丹餅



わたしの名前は織姫と云う。
親の込めた願いなんて、知らぬい。知ったこっちゃぬい。
両親は死んだ。とても無責任に、殺された。誠意の欠片もなかった。
殺したのはどこにでもいる親戚のひとだった。閉ざせれた邸内で、次々と惨殺されていく人々、血統賛歌。それが我が一族の必然。
まるで殺しあうための天による配剤。
動機があった打算があった因縁があった怨恨があった。
止まらなかった。
平成も24を数えた今に語るに値するだけの、価値が無かった。
もしもあなたが世間並みに映画を見てドラマを見て小説を読んで漫画に勤しむ人ならば、
きっと簡単に想像がつくだろう、恥ずかしいほどに安い茶番。
いわゆるひとつのみすてりぃ。もしくはすこしだけ、さすぺんす。
嵐の夜に、集った親戚一同。天候不順により外界から隔絶されて。
昔話になぞらえてひとり、またひとりふたり。鎮魂の炎、不知火は仏ばかり也。
はじまりのぎゃー。密室殺人、室内には糸状のものぐらいしか入らない隙間だけで。
殺人者がいるかもしれないのに、一緒にメシなんか食えるか!おれは自室でぎゃー。
ふふふ、わたしわかっちゃったんだ。お宝の場所。夏月さまに感謝かしらねぎゃー。
みんな、落ち着きたまえ。織姫くんがコーヒーを淹れてくれた。これで一服ぎゃー。
指!ぎゃー。腕!ぎゃー。脚!ぎゃー。臓物!ぎゃー。頭、ぶぎゃっぷ生首ぎゃー。
次は誰だ、わたしは嫌だ、わたしは誰だ、違う犯人じゃない、犯人は誰だ、誰か助けて!!!
だけど、そういう事件は絶対に解決するようにできている。たとえそして誰もいなくなったとしても、なんか手紙とかで真相がわかる親切設計の世界。
ていうか崖の上で自白をして自殺をする、そんなひとりよがりな、おなにぃすとぉりい。
まあそんな茶番があったわけですよ、つい先日、わたしの間近で。
そこでわたしは大切な人を殺されたり、犯人扱いを受けたりしてまして。
自分の無実を親戚一同が誰も信じてくれなかったり、赤の他人だけが信じてくれたり。
まーあ、モロに屈辱恥辱凌辱のフルコースを受けたわけですね。いやはや、思い出すだけでも鳥肌級の虎馬、もしくはただの馬鹿。
そういうわけでしっかり赤の他人な名探偵役もそこにはいまして。
この謎は絶対に解決して見せる。わかったんだよ、夏月さまの正体が。
もうこれ以上あの人に罪を重ねさせるわけにはいかない。これは悲しい事件だったんだ。
おれたちは勘違いしていたんだ。あの時、真犯人が言ったハロウィンの言葉によってね。
真犯人は織姫さんじゃない。ましてや夏月さまなんて、そんな古の殺人狂でもない。
ああ、そういうことだ。十五夜夏月様を騙った真犯人は、あんただよ。
そんなことをしてはいけない!お母さんだって、そんなことを望んじゃいないはずだ!
きゃー、彦星様かっこいー。わたしの彦星様、すてきぃ。あほかボケ。
それは語る価値が微塵も感じられない物語。
どこにでもある舞台で、設定で、演出で、配役で、展開で、どこにでもある結末。
そんな世界はどこにもない。だけど、そんな世界をあなたは知っているはず。
この世界に、いくらでも例があるはず。そんな感じの世界がわたしの世界だ。
まぁ適当にどこにでもある安い話を想像しといてよ、大体そんな感じだから。
そしてわたしは自身の無罪すら証明できない、無駄な人間でした。
わたしは大切な人の為に復讐をすることすらできない、無力な人間でした。
わたしは物語上に必要だったから立っていたような、無価値な人間でした。
ていうかもう、わたしという存在が何の役にも立たなかった以上、まじ無意味。
必要だったのは踊るピエロでわたしじゃない。冤罪を食らうという役回り。
ほうら、わたしという個性は何も、求められちゃあいなかった。
もうなんか、タナボタな結末そのものだ。
わたしは何もしちゃいないのに、なんか救われてなんか生き延びた。
そういうわけでわたしは今、とある山に来ています。







山彦さま、わたしを責めておくれ。
「だぁーっ!やってられるかくそったれ!!なんなんだよ、ざけんなよ!しね!まじしね!!腹切れ、首くくれ!!わたし!!!ぬがーばかばかばかばか!ばかやろー!しねしね!みんなしね!!なごっゲボっげほっゲほっ」
むせた。仕切り直し、すぅっと深呼吸。
「なんだよ、わたしがみんな悪いんだろ!?そうさ、わたしは何もできなかったさ!手をこまねいたりもしてたし、わたしじゃないと叫ぶだけだったよ!見て見ぬふりだってしたさ、自分が何もしない言い訳ばかり探していたさ!そりゃできること、すべきことはあったよ!今になって思えばたくさんあったよ!!でもわっかんねぇじゃん!そんなん無理だって!」
深呼吸もう一度、わんさげん。
「いいじゃん、彦星さんがみんな解決してくれたじゃんか!みんな救済するような結末をくれたじゃんか!残された人々が顔をあげて、過去を反省するような結末をくれたもんな!辛いことがありました、だけどだから頑張ろうと思います、いつしか時の流れが心を癒やしてくれるから。馬鹿にしてんのか!」
ギブミ酸素モア酸素!森の空気おいしいよ!
二酸化炭素さんがログアウトしました。でも何度でもログインします。
「ふたを開けてみればこれ以上ない結末で、ざらついた人間関係も今は過去になって、けらけらと互いに笑えるほどに色々と解消されて、るるるらららと歌まで歌っちゃえるほどの朝を迎えて、なぁなぁの世界をわたしたちはついに手に入れましたわけです。ふ、ざ、け、る、な!!!ぬがー!!」
ぬがー、ときましたよ。しかも本日二度目ですってよ、奥さん。ああ痛い。
呼吸が荒い。カラオケで熱唱してもこんなにカロリーは消費しないだろう。つまりはその程度の発散。絶叫健康法。ああ、こりゃ痩せんな。
足元には太めのロープと小さな台があった。完全にワンセット。あとは枝の太い木があれば。しかしホームセンターのレジを通る時はどきどきしたね。カモフラとか一切に頭回ってなかったし。今にして思えば完全にアウトな組み合わせですよ。
まぁだからってレジの人を責めるのは、筋違いというか間違ってるんだけど。
責任転嫁ヨクナイ!!耳が痛いよ。
さぁ!じゃあ死んでみよう!!
無意味で無価値なわたしなんて生きてたって仕方が無いし!
こんな屈辱感にまみれて生きることなんて辛いだけだし!
こんな劣等感に溺れてたら、彦星さまと対等なんて無理っこ無理っこ!
さあ、れっつとらいだい!しんでみよう!さぁしねわたし!!
あーしまった気づいてしまった、遺書を書くのを忘れてた。
まぁ、ホントに死ぬ気ないから当たり前なんだけどさ。
落ち込みついでにどん底を見てみようというだけ。
グッズを揃えて、場所も完ぺき、死ぬにはいい日だ。
今日は七夕、吊るすにもいい日だもんね。希望でも人でも世迷言でも何でも。
でもまあ、気付いてしまいましたよ、ワタクシの甘さに。
ロープも台も木もOKなんだけどさ、どうやって木にロープ吊るしたらいいんだろ。
わたくし木登りなんてできるわけありませんよ。毛虫とかいたらマジ無理だし。
では西部劇っぽく輪っかを作って投げれば、いやいやそれこそ首にかけるもんだ。
「まいったな。自殺がこんなに事前知識を求めるもんだとは思わなかった。まーあ、ほんとに死ぬ気無いんだけどぉ。ていうか、今朝もお腹一杯ご飯食べちゃったし」
死ぬなら汚く死ぬべきだとわたしは思うから、糞尿撒き散らして死のうが別にいいんだけど、それをいいと思える女心もどうかと思うけど、まぁ人間なんて汚いしね。何の話だっけ。
そうだそうだ。
辛いことがあったから、死のうと思ったんだ。
死んだ気になって頑張る前に、気分だけでも死んでみようと思ったんだった
大事だよね、そういう雰囲気に流される感じ。わたしは好きだよ。
ばっかみたい。
「・・・あーあ、一人でほんとなにやってるんだろわたし」
少なくとも26歳の女がやるような事では無いな。ほんと何やってるんだろう。
「何やってるんですかお姉さん!しんじゃ駄目ですよー!!」
「え?」
結構恥ずかしい出会いだよね。うん、わかってる。独り言てんこもりで、しかもやってた事が自殺ごっこ。それでも、それがわたしと牡丹の出会いだったんだ。
ああ、牡丹は今考えた仮名な。本名知らないし、世の中そこまで作為的に完成度高くない。







わたしは登山コースから少し外れた、影になっている場所で自殺ごっこをしていたわけだけど、なんか見える位置、つまりやっばり登山コースから外れたところに牡丹(仮)は立っていた。
「こんな場所で小学生、山ガール幼女だとっ!!?」
いかん、ついふざけてしまった。あと山ガールとか死語だ。使った人間が死ぬべき言葉だ。死ねよわたし。だから本当に死ぬ気はありません。はい堂々巡りの出来上がり。
「駄目だよお姉さん!自殺したら化けて出るんだから!!」
「ぶはっ」
面白いこと言うぜ、この幼女。お姉さんむせちゃったよ。ごめんね、突っ込みの腕の見せどころなネタに対してむせることしかできなくて。
ランドセルを背負った、可愛らしい女の子。お肌きれいだな、髪の毛も痛みなんて知らない年頃なのかな。いやまぁ別に染めてる子供なんて珍しくもないけど。でもまぁわたしがロリコンなら絶対誘拐する感じの愛らしさだったよマジで。孕むならこんな娘がいいよね。
「何笑ってんだよ!死んでもイイことなんて無いんだぞ!!」
わお、今度は哲学的だな。いや哲学ぜんぜん知らんけど。しかしさすが子ども、直球で真理を突きおるわ。たいしたやつだ、おねえさん好きになりそう。
さて、どうしたものか。てきとーにはぐらかせばいいんだろうけど、なんか惜しい気がする。ていうか、なんか逃げるみたいで癪だな。
無難に行っても、それが自分のためにならないみたいだし。最近学んだことだヨ!
ようし、ここはひとつ大人の余裕に満ちた対応というやつを練習させてもらうか。
「さっきから大声で叫んでたのお姉さんだろ?」
「ぶはっ」
痛い!聞かれていたのか、そりゃそうだ!だからこんな登山コースから外れたところに幼女が立っているわけで。ここまで呼び込んだのは誰だ。わ、た、し、だ。
「えーと、あれはね、違うんだ。あれはえっと」
「いいよ、辛いことがあるから叫んでたんでしょ。死のうと思えるぐらいにさ」
痛いよ、この子の言葉いちいち突き刺さるよ!申し訳なさでミチミチてくるよ!!
「…大人は大変だね。胸の内吐き出すにも場所を選ばなきゃで」
くそぅ、やさしいな、この子は。自殺とかを止めるプロの何かか。死にたくなってきたよ。あれれ。あれれれれ。
「でも駄目だよ、お姉さんが死んだら悲しいよ」
まずいぞ、この子は。なんかヤバい。
「わたし、お姉さんのことは何も知らない。それでも、やっぱり人が死ぬのは悲しいよ」
ヤバい。その言葉はヤバい。
そりゃあ言う事はわかる。わたしと、この子は赤の他人だ。今日が初めましてだ。
だから、この子の言うことは正しいよ。この子は正しい。
赤の他人でも、目の前で死ぬのは、あと後味が悪い。そりゃそうだ。
言ってしまえばテレビの向こう側で人が死ぬのと同じだ。
この子は、わたしを見ていない。わたしという個性を悔やんでいない。
ただ、人が死ぬのが悲しいだけだ。それは当たり前の感性だ。
原因はむしろわたしだ。この26年の人生で培った人格の程度が問題なんだ。
わたしは、何者にもなれちゃいなかった。
だから、安っぽい物語にすら簡単に踊らされて、無力を実感する。
何もできない、何もできなかった、という無力な存在。
その役回りだけを素で演じる、どこにでもある代替品。
テレビの向こうで惨殺される人形のような人間でもない。
ただ、情けなさぐらいしか涙を誘えない。
マズい。しにたくなってきた。ほんとうに。
「あー、ていうか、何で生きてるんだろ」
ヤバいわー。子供の瞳とか、まっすぐ見れないわー。死にたくなってきたわー。
ん、子供どこ行った?
おお、うずくまっているから見えなかった。子供は簡単に視界から消えるな。
なんだ、ランドセルから何かを出しているぞ。
あれデスか、銃デスか。ひと思いに撃ち殺してくれるのデスか。人形デスた。
「これ、この前の授業でつくったの。これあげるから、死なないで」
うわー、緑を基調にした恐竜さんだねぇ。うん、よくできてるよ。
ってやッすいな、わたしの命!!!







その恐竜は、あれだ。レックス的な何かだった。
背中に星の刺繍が沢山縫い付けられているのがチャームポイントなんだろう。
なんだか天の川みたいだ。それはエグいな。かわいいとはざんこくだぜ。
「お姉さん、しにたくなくなった?」
「いや、元々そんなつもりじゃなかったんだけど、現在進行形ですげぇしにたいかも」
「いみわかんないよ。ていうか何が原因なの、誰かに怒られたの?」
お姉さんは今まさに君に怒られている気分だ。君に怒られてマジヘコみしてきたよ。絶対零度突入だ。氷の女王とイッてもいいね。寒い意味で。
さて。恐竜さんで落ち着いた心で、冷静に考えよう。氷の女王としても、冷静大事。
それにこの子はイイことを聞いてくれた。何が原因か。まぁアレだ。色々あったけど、きっとわたしは自分をもっと大した奴だと思っていたんだ。
だから馬鹿みたいに状況に流されて、それでも言い訳繋いで今に至ってる。
そんな自分に絶望したんだね。脇役に甘んじる自分に絶望したんだな。
わたしはきっと、人生ってもっとドラマチックだと思っていたんだろう。
「ねぇー、黙っていたらわからないでしょー。何とか言いなさいよー」
先生のような物言いだね。それともお母さんかな。ふふ、ういやつめ。
「…聞いてくれる?お姉さんの周りで起きた、嘘みたいなホントの話」
「長い?」
っておい。そこ聞き返すか。
「火サスぐらいかな」
2時間かかる。大丈夫、ちゃんと10時マタギではかぽーんと、お風呂タイムもハサむから。おねえさん、こう見えて脱ぐとすごいんだからね。
「じゃあ駄目だ、寝ちゃう」
っておい。まじか、こむすめ。ていうか、まぁこむすめだもんな。色んな意味でわたしの思考は色々とおかしかったよ。ごめんね。
「そんなことよりお姉さん、ハロウィンイーターって漫画知ってる!?」
「えーと、まぁうん。絵ぐらいならわかる」
「駄目だよ、お姉さん、ちゃんと本を読まないと」
いやー、流されてるなあわたし。さっき結構に悲惨な話をしそうになってたんだけど、見事にスルーされたよね。ああ必殺のスルースキル、そんなことより。恐るべし。
「あの漫画のさ、ユウキ君かっこいいよね!だからだいじょぶだいじょぶ。お姉さんもあれ読めば元気になれるよ!!」
おそろしいこ。このおんな、どこまで本気だ。
「それよりさ、やっぱり今はバレー代表の静岡選手だよね!」
おお、それは知らん。ごめんな、お姉さんテレビあんまり見ないんだ。漫画ばっかり読んでるよ。だからゴメン、本当はハロウィンイーターすげぇ知ってる。わたしはユウキ君派じゃなくてタロー君派なんだ。パンプキンを食う話は泣けたね。
「だから男なんて幾らでもいるから!早まっちゃ駄目だよ」
そういうことか、このくそあま。そういう風に見て居やがったのか、わたしを。この脱ぐとすごいわたしを。
ていうか死にたくなるほどの恋とか、そんなん、したこと無いわ!
したいわ!いや、死にたくなる恋とかしたくないわ、死にたくないわ!
ああ、死にたくなってきた。死にたくないけど死にたい複雑な乙女心。死ねー。
うん、おちつけわたし。
ちょっとメガネでもくいっとやって落ち着こう。
「いや、お姉さん別に失恋したわけじゃないからね」
「え?じゃあ上司との不倫がバレて会社に居づらくなったとか?」
「キミの目にわたしはどう見えているんだよ」
「浮き世に疲れたOLの人」
そんなにやさぐれて見えたか。
「じゃあなきゃ平日のこんな時間に、こんなところにいないでしょ?」
「それはキミも同じだろう、ランドセルなんて背負ってさ」
ってそうだよ。今日って平日のそんな時間だよ。誰もこんなところに来ないと思ってわたしは自殺ごっこをしてたんだからね。
「いろいろあるんだよ、小学生には。夏休みの登校日とか」
それは休日に登校するパータンだ。てか、はぐらかすのうまいぞ、このこ。
「だからさ、おねえさんもいろいろあるんだと思う。わたしは勝手にそーぞーするしかできないけど、それで勝手なことを言うぐらいならできる」
きっと、それはどこかのマンガかドラマの台詞だったのだろう。だから少女は、まるで違う人間のような顔で言った。
「いやなことがあったならさ、なんでたたかわないの?」
わたしは、まるで磔けられた状態で杭を刺されたようだった。
さながら咎負い。その罪を償うべきは、誰だ。



・・



牡丹とは適当にだべった後に、死なない約束をさせられてから別れた。でもね、人は簡単に死ぬんだよ。
さて。
イエス!わたしには何も無い!
無い無いづくしを数え上げてもいいけど、折角踏みとどまった文字通りの自殺行為を無駄にするわけにもいかない。
しんだつもりになるのは今なんだ。
わたしは、しにたくなることから、にげないと決めた。
ショぼいわたしは、きっといつまでもショボくて、どこまでも果てしなくショボくなれる。限りなく絶え間なく、泣けてくるほどに。
それでも、それが変わらないのなら、ならもう変わらないまま行こうと思ったんだ。
無いわたしは、無いことを武器に立ち向かおうと思う。
ハナから虎の威。かと言って女狐を気取るわけでもない。
わたし自身には、なにも無い。
だけどわたしには、彼と接点がある。ならば、それだけでいい。
だからわたしは今宵という七夕の夜に、彼に逢うと決めた。ついさっき。
なぜならわたしは織姫だから。後付けの織姫であろうと、わたしは織姫なんだ。
だから、彦星に逢いに行ってもなんらおかしくないんだぜ。
わたしを救って、守って。そして。嗚呼、素晴らしいヒーローさま。
よくもわたしにこんな敗北感と屈辱を与えてくれたな。
わたしが無力でチープな存在だと自覚させてくれたな。
いいじゃん、じゃあわたしはそんなショボいわたしであんたに立ち向かってやる。
周囲の顔色ばかりを窺って、全員に優しいを振りまいて。
そんな人間がひとをどれだけ傷つけたか教えてやろう。
わたしが、あんたの前でぼろぼろになって打ちひしがれる姿を見せつけて。
ありがとう、牡丹ちゃん。きみのおかげで決心がついた。
わたしは自分にバツを与えたかったんだ。そしてそれは自殺行為じゃなかった。
首吊りがしっくりこなかったのも当然だ。なぜなら、それはわたしに罰を与えられる行為なのか。違う気がするからだ。
わたしは知っている。
死というものが、如何に人を苛むのか知っている。
死は、罰では無い。たとえそれが自殺という罪深いものであったとしても、決してそれは罰にはならない。
死は、残された生者に罪を問う。その死に、あなたに、何に、罪に、死に。磔けられた聖者のように。苛む。
罪を背負ったふりをして、罪を問う。それがわたしの学んだ死の本質だ。
だから、自殺は違うんだな。それは愚かなわたしに与える罰じゃない。もっと勝ち目の無い状況で、無様に這いつくばると理解していて、そして正義も無ければ、大した理由もない。そんな状況で恩人に仇為し返り討ちにあう。それでこそ、わたしへの罰に相応しい。
そういうわけでわたしは今、とある川に来ています。



・・



禊ぞ今は、なんとかかんとか。
わたしは冷たいセセラギに手をつけながら、失恋の今を思っていた。
過去から現在、そして未来を股にかけてわたしは失恋をし続けるのだろう。
ずっと好きだった。振られた。
ずっと好き。でも選ばれない。
ずっと好く。イツカは来ない。
寂しいよ。情けないよ。彼の笑顔に救われている自分が痛いよ。
わたしが好きになった人は、会社の人で、仕事でも接点の多い人だった。
やさしいひとだった。残酷なひとだった。
わたしを選ばない理由にわたし以外の理由を挙げて。
わたしは辛いことがあった時に、何かに当たるように彼にブツけた。
彼は優しく受け止めて、そして甘い言葉は決して吐かなかった。
甘ったれたわたしは、それでもその日々に安らぎを見出していた。
新しい出会いも無く、ただ彼と親しくなる毎日。体は温もらない。
脈が無いことを確認しては頭痛がするほど嫉妬したこともある。
死んでいるも同然だった。ゾンビ、そのものだった。
会話の無い日が続くと胸が張り裂けそうになった。
それが彼と会話を交わすだけで救われた。
つくづく救われない愚かなおんなだと思う。
なんなんだろうか、わたしは。フラれることも満足に出来ないおんな。
そんなわたしにも、いつか王子様がきっと迎えに来てくれる?
そうだね、驚いたことにそんな日がやってきたね。
親戚が惨殺されたり、大切な人に裏切られたり、罠にはめられたりした中で、運命の人が突然現れて、助けてくれたね。
でも、わたしは思うんだ。
そんな相手に惚れたところで、わたしはその人と対等になれるのか。
だめだな。なれっこねぇわ。
そういう理由で折角の王子様に惚れないんだから勿体ない。
乙女回路をこじらせると、逆に乙女を気取れなくなるもんだ。
わたしは自分の事は割と蔑ろにできるけど、わたしが誰かの負担になるなんて耐えられない。そんな人間だった。
矛盾は百も承知。むしろ今と矛盾しているからこそ、それが願いに値する。
だけどわたしは、どんな自分になりたいのだろうか。
誰の為に生きているんだろうか。何のために、今を生きているんだろうか。
未来のためか、それとも過去のためか。今のため、ではない。
わたしは、今をかなぐり捨てたいのだ。
わたしは、川底の石を掴むと対岸に投げつけた。
対岸に届くことなく、川の半分ぐらいで水面にボチャた。
「ふぅん」
なんとなく、川に嘲笑われた気がした。
少なくとも被害妄想に陥るスイッチが、カチリとカチった。
何か、良く飛びそうな良い石と、目標になるような好い的は無いかな。
「あ」
川の対岸に、あの人は居た。さて、誰でしょうか。



・・



初対面です。ていうか多分、これからも会話とかを交わすことは無いでしょう。
ただ、全裸でポーズをとった変人がいた。ていうか変態がいた。うん、若い男だ。筋肉もそこそこ、観れるカラダだわ。
こんな平日の日中に、こんな山外れの河原で全裸ポージング。
間違いなく逮捕しなくちゃいけない。現行犯には市民にも逮捕権があるそうだ。
「って、それは何の罰ゲームだよ」
ヤバいなぁ。独り言が癖になってるわ。死んだ方がいいな。
しかし怖い。なんだか、あの変態とは目があったが最期、な気がする。水面とか全力疾走で仏契ってきそうな気がする。全然疾走してきそうな気がする。
怖いので、わたしは川を離れることにした。ていうか下流に向かって歩き出した。
しかし凄いな、変態全裸インパクト。さっきまで結構アンニュイに黄昏てたハズなんだけどな。なんか、もうびっくりするほどに毒が抜けちゃったや。
うそだよ、そんなわけねーよ。変態死ねよとしか思わなかったよ。
そんな簡単に割り切れるのなら、片思いなんかこじらせねーよ。ばーかばーか。
ばかはわたしだ。
ていうか、全裸の男なんて妄想の産物なんだろう。
なんか川に飛び込んでクロールしている狂人が見えないことも無いけど、たぶんパラレルワールドな平行世界があそこだけ重なった的なハリウッド的ななんとやらだ。
まあ、色々あるよね。少なくともさっきまで首つり自殺ごっこをしていたわたしには、あの人を否定する資格はない。
ただ、ありのままに変態、死ねよと罵るだけだ。
世界は今日も回っている。何かが変わっても、何も変わらない。
わたしが変わらないと、わたしは変わらないんだ。
ありがとう変態の人。わたしはわたしだけが変じゃないと自覚できた。
感謝は尽きない。
少なくとも、わたしにはあんなばかにはなれない。
だから、わたしはわたしにできる変化で、挑もう。
わたしは、ここにいる。それだけで挑める勝負がある。
結論を言えばわたしは死にたかった。
犯人と誤解されたまま、死んでしまいたかったのだ。
こう言えばわかりやすいだろう。
余計なお世話で救われた命がこの命。
真相なんか、英雄気取りが見抜くまでもなく、気づいていたっつーの!!




・・



わたしは犯人とされたまま、死にたかった。
そうすることで終わる因果があるはずだった。
価値のないわたしにできる、唯一の恩返しのはずだったのだ。
そこに大したドラマはない。ただ、名探偵気取りのイイ男が見抜くまでもなくわたしは真相を見抜き、その上で精一杯無様に散ろうとしただけの話。
どこにでもある、ヒロイン気取りのくだらない話。語る価値もないよね。
全てが、人ごとのようだった。わたしは、さながらただの装置だった。
ワタシニアテガワレタノハ冤罪喰ラウなんちゃってヒロインデシタ。
名探偵が真実を述べている間、わたしはただの驚き役だった。
だからって感情がないわけじゃない。
トリックに必要だったからいたようなだけの存在でした。
だからって感情がないわけじゃない。
ドラマに必要だったから呼ばれたような背景そのものか。
だからって感情がないわけじゃない。
わたしには心があって、ずっと感じていることがあった。
犯人はすぐにわかったし、その動機に心から同情もした。
犯人の憎しみがわたしに向いていることも仕方がないと思えたし、だからこそ犯人役として殺されるのもアリだと思った。だってわたしはお姉ちゃん、なのだから。
なのに!!
あのこを何も知らない赤の他人が、あのこのがんばりを止めるな!
ふざけんな!わたしは、なにがあってもあのこの味方なんだ!
そんなことまでする必要がないとか、なにさまのつもりだ!
なんであんたがあのこの魂を救うんだ、おまえはなにさまだ!
人生がある。
過去があって、現在があって、未来がある。
そして、わたしがある。
どこにでもいるわたしの、どこにもいないわたし。
わたしの価値は、誰かの引き立て役、それだけなのか。
幸せな人の幸せを際立たせる、それだけなのか。
平和の価値は、平穏の価値は、もしくは今日という平日の価値は。
さあ、もう下らない話はいいだろう。
今日は七夕だ。まだ夜までに時間がある。
これからわたしは願いを吊るす。それはほかの誰でもない。わたしの意志だ。
願いを吊るす行為はいつだって、意志を固める為のもの。
誰かの何かなんて、期待しちゃいけない。
だから、吊るそう、その願いを。
どうか救われないわたしが、誰かの救いとなれますように。
もしくは、世界が滅ぼせますように。
さもなくば、わたしの恋が叶えられますように。
と、まぁそんな感じ。
もうなんでもいいから、過去を振り切る未来を掴みに行くぜ。
わたしの願いは、新しく始めることなんだから。



・・・



我が儘戸惑い。そんなことはわかっている。
彼のくれた解決は、わたしの自己満足な自己犠牲とは比較にならないものだった。素晴らしくて優しくて、頭もいい。非の打ちどころのない解決だった。
大事な妹の笑顔も守ってくれた。だが、それで。わたしは?
わかっている。我が儘だ。わたしは、思いもよらぬ幸福に戸惑っているだけなんだ。
一族に伝わる呪いのような因縁。終わりの見えない因果。そんなものに、いともあっさり蹴りがつきました。それはとても素晴らしいことです。
だからね。
どれだけどれほどいかにわたしがわたしがわたしがわたしが。わたしが。だろうが、関係がない。わたしはハッピーエンドが、無差別で理不尽に平等なものだと学んだよ。
歩き出せば、素晴らしい未来が待っているわけではない。
だけど、悲惨な結末の可能性は潰れた。絶えた。
だから、これからがわたしの未来。わたしの未来が、今。
さあ、わたしの物語をはじめよう。彼のくれた未来をわたしの為に使おう。
今日という七夕の舞台は、空じゃない。この大地に流れる川だ。
山を川を彷徨ったことは無駄にならなかった。自然はイイね。
大地の上で、わたしは川を挟んで彼に対峙しよう。
そして、戦う。
心を心で殴りつける。ありったけの思いをブツけるんだ。
これから雨が降れば、虹は天橋立。川は変わらず地を這うように流れている。
叫んだことも、少女に出会ったことも、変態を見たことも何の役にも立ちやしない。
それでも、何かが、昨日よりも何かが軽くなった気がする。
こうしてわたしは、また川に来ました。変態はもういません。
彼もいない。それでいい。
携帯は便利だね。
「…やぁ、彦星くん。君の過ちを教えてあげるよ」
人は万能ではない。



・・・



そのドラマにもならないやり取りをかたるつもりはない。
わたしは彦星くんと対峙をして、ちょっとした喧嘩をした。
ただ、全てが丸く収まったわけじゃねぇぞって言った。
川の流れは途切れることもなく、やがて海が始まる。



・・・



牡丹は家庭に問題を抱えた、どこにでもいる少女だった。
後にわたしは、ニュースの片隅に彼女が映っているの目撃する。
それは本当にどこにでもある、解決不可能な不幸だった。
だがそれこそがきっと、真の意味で物語るに値する願いなのだろう。



・・・



変態男が川で全裸っていたのにも、きっと理由があったのだろう。
むしろ、彼こそが実は誰よりも主役な人生を歩んでいるのかもしれない。
人生は側面だけでは測れない。一ページのクライマックスはあくまで一ページ。
そんな世界、そこで人は飾って日々を生きなければいけない。だからまず服着ろ。



・・・・



手元で炸裂する線香花火が、懐かしい夏の香りを届けてくれました。
一人花火。だけど、なんだか少しだけ胸が弾む。
コンビニで花火と一緒に買った餅菓子を頬張ったら、ぽたりと花火牡丹は落ちた。その刹那い姿を、願いを叶える流れ星にたとえるのは無理があるだろう。
それに今宵は七夕の夜。だったら願いを叶える流れ星に用はない。
七夕牡丹餅。零れ落ちた牡丹餅の行きつく必然は。
わたしは全て飲みこんで、それでもわたしは前へ行こうと思う。
何も、辛かった出来事だけが辛いことじゃない。幸せだという辛さだってある。そういや字も似てる。
歩き出そうと思う。
だってそうじゃん。突然の不幸とか幸せとか。そんなもん、たまたまに餅があったようなもんだ。うまかろうがまずかろうが、わたしに責はねぇ。そんなことより餅をさ、いつ食うかの方が大事だよね。
10時のおやつ、いいよね、それも。
でざーとしえすた、悪くないよね。
3時のおやつ、そいつもクールだ。
でも、もしも今日という日に幸せがあるのなら。それはきっと、夜空が相応しい。
ほら、見たことか。甘いじゃないか、お餅。そういうものだ。だってお餅だもん、七夕だもん。




・・・・



線香花火はパチパチと牡丹の花を咲かしていた。
咲くも花なら散るも花。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。
わたしは、どんな花になれるのだろうか。どんな種を、人の心に撒けるのかな。
ほんと生きるって、なんなんだろうか。目の前で咲く線香花火には負けられない。
人生はくだらないことが多くて、ドラマッチックで無い出来事が地味に心を苛んだりもする。わりと不幸は不幸を呼ぶし、幸運には落とし穴がある。
わたしはこれまで、わりと有象無象の様な人生を歩んできた。
そりゃあ不自然なトラブルの世界に閉じ込められたこともあったけど、だからって何かができたわけじゃない。
近しい人の自殺が止められないのと同じだ。できることなんて、なにもないんだ。
今には沢山の言い訳があって、やらなくてもいい理由なんかも沢山あって。
逃げても、きっと何事もなく世界は廻る。世界はそもそもわたしという存在に無関心だ。
だから、どうした。わたしは怒っているぞ、苦しんでいるぞ、喚いているぞ。戦いに行くぞ。
最近聞いた歌も言っていた。世界はお前が大っ嫌い。
敵は一秒先の未来、失うものなどとっくに無い!!
いいんだ、それで。
美しい世界を歌う歌もイイよ。でも今は、痛いことを言ってくれる歌がいい。
それでも、って言葉が大事なんだ。それがきっと、未来に立ち向かう心をくれるんだ。
今には沢山の言い訳があって、やらなくてもいい理由なんかも沢山あって。
逃げても、きっと何事もなく世界は廻る。世界はそもそもわたしという存在に無関心だ。
だから、どうした。わたしは怒っているぞ、苦しんでいるぞ、喚いているぞ。戦いに行くぞ。
七夕がどうした。願いが叶う夜か、違うよな。願いを言葉にする夜だよな。
わたしの願いは、昔からきっと何も変わらない。
どれほどの無力がわたしを襲っても、わたしはきっと何も変わらない。
いくら心が折れようとも、明るい未来が待っている気配がなくても、だ。
わたしは、わたしの心が死ぬことだけは耐えられない。
わたしは、わたしはここにいるぞ、と高らかに叫びたいんだ。
わたしを、見てもらいたいんだ。
だったらホラ、死んでいる場合じゃないよな。死んでる場合じゃあねぇぞ。



・・・・



この大したことも無い物語は、所詮は後日譚だ。
わたしがわたしにわたしのわたしを見出す、それだけの流れ。
そう。わたしが見失ったわたしを再確認する流れなんだ。
つまらないわたしがここにいるのかもしれない。
わたしがいなくても誰も困らないかもしれない。
もしもわたしが死んでも、やさしい人に悲しんでもらった先の未来で、何かが変わるとも思えない。だってわたしの人生はわたしのものだもん。
何度でも言う。わたしの人生なんだ。辛いことも悲しいことも許せないことも、全部がわたしのものなんだ。
わたしは、ここにいるぞ。わたしはここに立って、どこにでもいる人のように辛いことにもそこそこ耐えて、愛想笑いの笑顔だってみせてやる。
七夕だろうが十五夜だろうがハロウィンだろうがクリスマスだろうが何でもきやがれ。何にもなくたって構うものか。
わたしは、ここにいるんだから。
そうだ。わたしは、ここにいるぞ!なんでもきやがれ!かかってこいや!
受け止めてやるぜ、今度こそ。春夏秋冬四六時中四季折々。季節が幾度、廻ろうとも!
また流されるだけかもしれないけど、受け止めてやる。それが今日のわたしの決意だ。
全部受け止めて、冷静に心を整理して、明日のモチベーションにしてやる。
ブチギレだって躊躇わずにしてやろうと思っているよ。
でもやっぱり、そんな日々ばかりが続くのは、やっぱり辛いよね。
だから、たまには美味しい牡丹餅も、よろしくお願いします。と言いたい。
川原で花火をしていたら、ふと笹が目に付いた。お笑い草のご都合主義なのかもしれないけど、それぐらいの偶然は許してほしい。
だってわたしは今日という一日を、笹探ししていたんだから。いや、目的の一つとしてだけど、それが理由で色々と彷徨っていたのは事実なんだよ。山には無かったんだ。
もしも全裸男インパクトがいなければ、普通に昼過ぎには見つけていたのかもしれないね。まぁでも、もう色々な言い訳とか挟んで、今をノイズみたいな袋小路で飾るのもいらないか。いらないや。いらないよね。
七夕の夜に捧げた願いは叶うという。
もらえますように。なりますように。あれますように。
どうか甘い未来が待っていますように。沢山のありがとうを言えますように。
まるで自分を励ますように、ただひたすらに願いを吊るす和の国の営み。
わたしは、可愛い緑色の恐竜が覗く手荷物の中に突っ込んでおいた、願い事を書いた紙を取り出した。恐竜くん、いいや緑だから君の名前は草餅としようか。草餅くんが、優しく頷いたような錯覚に背中を押されて、靴が濡れるのも構わずにわたしは笹に願いを吊るす。
人の目にも触れない河原で揺らめくささやかな願いと思い。
この願いを吊るした笹の葉に背を向けて、決して振り返ることなく歩き出せたのなら、きっとわたしは少しだけいい女になれた気がするのだろう。
もう雨が降ろうがってヤツだ。そんな感じでこれからの日々を躊躇わずに前向いて歩けますように願をかけて、わたしは花火のゴミとかを片手に歩き出す。
家に帰ろう。そこから、また明日を始めよう。未来はここにあるから。
それこそ雨の天の川すらも越えて、誰にでも会えるようになれるように。
痛みさえも、未来に繋がるように強く、願います。
辛い全てを水に流した明日が、来ますように。
そんな日が来ないからこそ、わたしは明日もガン張る。
七夕牡丹餅。願いとは関係の無いところで明日は進む。
願いを叶えるのは明日じゃないし、もちろん今でもない。
運命でもなければ偶然でもない。出会いでさえも、大した価値はない。
他でもないわたしなんだ。わたしこそがわたしの願いを叶えるんだ。
だから、わたしは願うことから始めよう。
そこからきっと、わたしが始まるんだ。



・・・・



見てろよ。
そう言える人生を、わたしは歩むと決めた。
言い続けると、決めたんだ。
だからそれを毎年思い出せるように、今日という約束の日に誓う。
それでいい。今のわたしは、それでいい。
いずれは自分が牡丹のようになるさ。とびっきりに餅肌美人のな。
だから、いまはこれから吊るした願いを届けに行くよ。
見てろよ。まだ何も終わっちゃいないぜ。
わたしの名前は織姫と云う。
お菓子片手に思い出すは、揺らめく願いを吊るした笹の葉から零れた雫。
そんなタナボタのような、なんでもない一滴が未来に向けた、せめてもの祝福だったんだ。
だからきっと、もうだいじょうぶだよ。
今日も。そして、明日からも。

2012/07/07(Sat) | 小説・七夕牡丹餅 | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
七夕前夜の笹乃葉戦火
7月7日に雨が降るのは、天の川に虹という架け橋を渡す為なんだってさ。
そう、昔おじいちゃんが言ってた。

そこには満載と突っ込み所があったけど、そんなのはどうでもいいって僕は言うね。
てかさ、7っ数字を虹に繋ぐ祖父様の発想が、クールだと言いたいわけなんだよ。
まあ、世間ではこの程度の発想、ありきたりってヤツなんだろうけど。
なあそうなんだろう、何にでもケチをつける万能のミスター面白い人さんよ。

しかし七夕ってヤツぁイカレてるよな。
吊された願いは誰が叶えるか、知ってるヤツぁいるか?
僕の周りにはいなかったよ。あぁいやしなかったね。

あんたは、雨の音色は好きか?
いいね、虹を造る色ってか。
確かに雨は、時には耳をふさぐ手間を省いてくれるね。

昼に天の川は見えない。
夜に虹は見えやしない。

そらみろ、どうやったって会えっこねぇじゃん。むだむだだよ!
織も彦も現実みろよ!おまえら会えっこねぇじゃん!
てめえら許される許されねぇ以前に、会う手段講じる気ねぇだろ。
天の川どうやって渡る気なんだ、虹の橋なんて心から使えねぇぞ。

七夕の願い?
それを聞くかな、この僕に。
決まってるだろう、それでも織姫と彦星が逢えますようにって願うのさ。
今日逢えますように。明日も逢えますように。
未来永劫、神として尽き果てるまで愛続けられますように。

あぁそうだね。願うだけじゃ願いは叶わない。
じゃあ誰がその願いを叶えるかなんて言うまでもないよな。

僕はあなたを笹の葉の様に吊す事で、この願いを叶える事にしたよ。
はじめまして、彦星です。囚われの姫に逢うためにここまで来ましたよ。

炎を灯せ、無力な願いの虚なる舟よ。
せめて未来を破滅と栄光で誤魔化して見せろ。

そうだ。願いを抱くだけの愚か者に。
無力を享受して立ち向かわぬ敗者に。
美しい明日を信じて疑わぬ夢想者に。

教えてやろう。アナタニ出来ルコトナドナニモ無イト。

だからせめて眺めていろ。
まるでテレビの向こうで人が死ぬように。
それさえもが配慮された虚構であるように。

今宵の戦いは、誰にとっても不可侵そのもの。
たとえ明日が晴れたとしても。
血の雨が決して二人を逢わせるわけにはいかないから。

願いの舟なんか、すべて燃えて沈めばいい。



七夕牡丹餅
【予告編④:七夕前夜の笹乃葉戦火】




ロマンって言葉を知ってるかい?
ロマンは涙の上に成り立つ物語なんだってさ。

なんてこったい。まさに天の川と虹じゃないか。
涙は天の川と流れて、涙は彼方に虹を描く。
あいにく僕はもう、ロマンには飽いてしまったよ。

だからそろそろ、サヨナラにしようか。
僕にはあなた以外にも吊す相手がいるんだよ。

虹の色の数を識るあなたはきっと、素晴らしい。
でも僕の行動を理解する想像力をもたないんだろうね。
やさぐれた人間だからこそ、何かを変える俯瞰に至る。
だけどやさぐれた人間には、致命的に行動力が足りない。

その物語は、そんな人間に与えられた、何もしていない物語になるらしいよ。



小説・七夕牡丹餅 
2012年7月7日更新




これは七夕の奇跡という、お笑い草。
あなたにははじめから、出来ることなんてなにも無かった。
2012/07/06(Fri) | 小説・七夕牡丹餅 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
クリスマス アライブ
織姫とは紡ぐ者であり、何かと問われれば人の営みを、きっと未来へ織るのだろう。
たとえばこの日本という国において、季節ごとの催事は当に人の営みそのものである。

遠い国では惨たらしく小さな子供が死んでいく裏で、人々は笑顔を隠すことなく祭り祝う。
だが、その行為は決して罪ではないのだ。
確かに、その笑顔が彼方の不幸に届かないことは悲しいものである。

だが、目の前の近しいひとに笑顔を振り撒く行為が自粛すべき恥ずべき振舞いであろうはずもなく。
混同してはいけない。
たとえ不幸が忍び寄る環境を目にしていようとも、その躊躇いは責任逃れの偽善にしかならないのだ。

人は責任を逃れてはいけない。
理性とは甲斐性の上に座する上位互換なのである。
有事にこそ責任を問う前に、未来を描く行動を抱け。

もしも十五夜の月に七夕の妃がかどかわされたとしても、何一つすべきことはかわらない。
これは劣悪な運命を誤魔化す物語ではないのだ。
不知火陽炎朧月。ウィル・オ・ウィスプの舞う夜にカボチャの馬車はイタズラに愛想を振り撒いて、燃え尽きたあの夜のように。
偉大なる預言者の生誕と死を祝え。


祈りとは万事に行動を尽くしてこその振る舞いなのであるならば。
最愛の君よ、どうか決して後悔の無いように。

我が名は彦星。
今宵より、未来を目指して発つ愚か者の名に他ならぬ。


遅ればせながらメリークリスマス。


今宵、もはやプレゼントに用はない。
これより我は数多の白ひげが屍と骸を踏みしめて、望む未来に挑む所存をここに刻む。


悪鬼羅刹の前夜祭。血の赤を。天の川よ。
罪と悪が、恥ずべき営みではない未来を描いてみるがいい。

後に戦争と世界の終わりを告げる救世主をもって役者は揃う。
血戦は、七がけの夜に。


数えて前日をイブと呼ぶならば。
イブを重ねることで過去にさかのぼるとするならば。

未来は。



悪趣味なサスペンス気どりなどもはや用はない。
これより先の物語は全てがクリスマスの後日譚。



七夕牡丹餅
【予告編③・クリスマス アライブ】





届け、奇跡よ。遥かではない彼方の未来を描け。
残り、半年を切れ。





2012年7月7日更新予定
2011/12/26(Mon) | 小説・七夕牡丹餅 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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