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十五夜夏月様2014
どこまでも広がる青い空の下で、無機質な液晶に手を触れる。
人にやさしく触れる機会の無い指先が、どこまでも柔らかく画面を撫でる。
別れというにはあまりにも一方的で欺瞞と取り繕いに満ちている文面。
綺麗にうやむやにしたい、そけだけが込められたメール。
まるでそれは遺書だ、と夏村懐(なつき)は思った。

死ぬと決めたあの日から、いったいどれほどの時が流れただろうか。
笑顔は廃れ、涙は溢れ、周りの人々は笑っている。
毎日が死ぬにはとてもいい日で、だからこそ今を生きている。
死ぬと決めて、だけど死ぬ前に片付けておきたいことが次々と起きて、そうして死にきれないまま今日がやってきた。
それは仕事であり、生活であり、交友である。友人の結婚式や、汚れた部屋、逃げると他の人に迷惑のかかる仕事。
くだらない、そんな自分とは本質的に関係のないことが、すがるべき逃げの理由だった。

人は、簡単に死ぬ。だからって、簡単に死なない。簡単な理由で、死ねなくなる。

天気予報では曇りだったのに、空はどこまでも青くて、羨ましいほどの熱がこもる。
何が熱くて何が寒いのか、もう懐にはわからなくなっていた。ただ、自分の眼だけは冷めていると、それだけは確信していた。
零れた独り言は、誰に向けた言葉でもない。だが、誰かに聞いてほしくて吐いた言葉だ。悩みも恨みも誰にも届いていない気がするから、零した言葉だ。
「そろそろ、いい加減死なないと、な」
地獄の本質は報われない処にある。決して報われることのない此処が、誰しもにとっての地獄であった。
ありがとう、そしてさようなら。
今日は、とても月が綺麗な日です。だから、大好きです。
死ぬには、とてもいい日だった。


十五夜夏月様2014



懐は茶番のような世間話が嫌いだった。とっとと本題入れって考える小さい人間が夏村懐という男だった。
「夏村さんに、報告があんねん」
「どした、織姫さん?かしこまって」
惰性みたいなくだらないサービス残業の帰り道、同僚である織姫さんの言葉で立ち止まった夏村懐は未来を見た。ああ、たぶん嫌な報告だ。きっと聞くに堪えない幸せな報告だ。
付き合っている人ができた。それはきっと後輩の佐藤くんだ。
「わたし、付き合っている人ができたんよ」
「そっかー、おめでとう。よかったやん!」
自分の精いっぱいの空元気を込めた笑顔の言葉、まるで早押しクイズのようだと、懐は思った。だけど、少しやりすぎた。ほら、夏村懐からの好意に気付いている織姫さんがむしろ動じてしまっている。
だが男のプライドが許さない。たとえ見苦しくびっくりした素振りを見せなければいけない場面だったとしても、それだけは絶対にしてやらない。
先手を取り続けろ。暴発寸前の惨めさを言葉にしてしまわないよう、別の言葉、ポジティブな祝福の言葉を続けるんだ。この、茶番を前に進めるんだ。笑顔でこの場、別れるためだけに。
次は少し掘り下げて聞く。言いにくい話だというポーズをとりたい織姫さんは、多分こちらから聞かなくては言葉を続けない。
聞かれたから、答える。少し前に振って捨てた人間を、傷つけない為に。自分から男の心を刺すような言葉を、いい女は吐かないものなのだ。
誰が決めた?知ったこっちゃねー。そんな織姫さんのやさしさは、誰に向けたものなのか。正直に傷つけることを言うのがやさしさなのか。えっと、やさしさってなんだっけ。でも、だから、ならば、そんな冗談みたいなやさしさを達成したかのようにしてあげよう。茶番の綱、渡りきれ。
誰と、いつから、どっちから。焦るな、畳みかけるな。自然な言葉だけを、慎重に綴れ。
「…良かったやん。相手って、おれの知ってる人とか聞いていい?」
まあ、後輩の佐藤君だろうけど。
「うん。夏村さんの知っている人」
確定。後輩の佐藤君です。しかし、まだ名前は出ないか。それはまるで、決して差し伸べてくれないりんごのようだ。籠にあるから取りたければとれ。決して差し伸べることはしないし、邪魔もしない。
これは、別れ話なんかじゃないし、厳密にいえば振った振られたの話でもない。
赤の他人が織りなす、なんかどうでもいい話だ。…つまりは、どうでもいい日常だ。
「佐藤君?」
「……うん。なんでわかったん?」
答えはいつだって神のみぞ知る。君のこと見てたから、とか言えばいいのだろうか。わっかんねー。夏村懐には、正解が何なのかわからない。ただ、最後の尊厳を保つためには、決して本音を晒さず、この茶番を渡りきることだ。
「なんとなく、な」
夏村懐は、織姫さんが好きだった。辛いときに相談に乗ってくれた、励ましてくれた。たったそれだけのことが、地獄みたいな自殺願望に押しつぶされそうにな日々の中で、眩しすぎる夢のようだった。
たとえ相手がそういう風に夏村懐という男を見ることがなかったとしても、思う気持ちに変わりはなかった。
実際、自分みたいなクソに女を幸せにする甲斐性などないのだから、素直に幸せになってほしいと思う気持ちにも嘘はなかった。
「よかったやん、ほんまに。おれは今こんなザマで、仕事とか辛くてヘコみまくってたけど、そん時に織姫さんに励ましてもらったから頑張れた部分があって、せやからホントにうれしいわ。幸せになりや」
最後の言葉は少し言い過ぎたか、まるで寿退職するみてーだと懐も自虐する。
「うちが派遣から、正社員になれた時、夏村さんが助けてくれたおかげやし。色々と話も聞いてもらえて、うちもほんとに嬉しかった。あんだけ本音で話したのも、たぶん夏村さんだけやし…」
ああ、切り上げてぇ。がんばれ夏村懐。それから暫く話をした。ちょっとだけズルい言葉も残して、最後に彼女は泣いてくれた。女の子はずるいなーとしか思わなかった。
だから別れた後、夏村懐は心から死にたいと思った。


*


織姫は、自分の卑怯さに嫌気がさしていた。
夏村さんのことは嫌いではない。今でも友達だと思うし、いい人だとも思っている。
ただ、心が折れている情緒不安定な人を、隣のオプションとして考えることはどうしてもできなかった。好意が、愛情に直結するわけではないのだから。
これまでも脈が無い自分に後ろめたさはあったが、それでも彼から誘いがあると、たまに二人で呑んだりする仲だった。楽しかったのもある。でも、それ以上に、簡単なきっかけで投げだしそうな彼の大事なものを、繋ぎ留めておきたかったからだ。
命を。
男に抱かれながら自己嫌悪で押しつぶされそうだった。いっそこの胸で押しつぶしてもらいたくて、また男にしがみつく。
それがただの愛情表現にしかなっていないとしても、抱きしめる意味はそこにあったし、その日、抱きしめてもらいたいと思う意味もそこにあった。
まるで祈り、鎮魂のようだった。慰めの本質そのものだった。
自分が流す涙が誰のためのものか、織姫もわからなかった。
それでも明らかに心が折れている人間に、あえて茶番のような酷い仕打ちができた理由はある。そしてそれこそが自己嫌悪の本質であり、卑怯な鬼畜の所業そのものだからである。
彼は、これで暫く自殺しないだろう。なぜなら、彼は優しい人だ。そして、プライドの高い人だ。
だから、こんな「女に振られた」みたいに思われるタイミングで死んだりは決っしてしない。
涙がまた零れる。
これぞ女の涙だと、織姫は自覚していた。
まるで誰かのために泣ける自分が、誰かのために泣ける自分が人でなしではないかのように、アピールする為に流す涙。
どこまでも濁った涙を、織姫は男の胸に押し付ける。
一緒に汚れてほしいから。


**


歩き出そうか どれだけ辛くても
素直に歩いていける奴になろうや
夏に魔法が解けるみたいに ほら
自分である事をまず誓おう さぁ

本当の自分なんてただの本能だから
あなたの心・体に 技を後出しして
過去はもういい 今日 この場から
そんな寒い言葉だけなら相当馬鹿だ

人は失っても歩きだせる だから悲しくて
永遠に思えても 簡単にあなたなら死ぬぜ
見て見ぬふりなんて 本当に本当に簡単で
目の前の死神がまた速攻に殺しにかかって

狂おしいほど納得がいかないことが山ほどあった
それでもまだ人生が続く限り 人はまたここから
キミをお前をあなたを許す許さないとか争うなら
何も変わらない だけどひとりならそうじゃない

人は他人が死んでも生きていて
誰かの為に泣ける様な君で居て
そんな残酷な言葉が染みてきて
また笑って途切れぬ死に滅入れ

夏は夜 月の頃は更なり
まずはそう、月の様な貴方に
彼方に届く言葉よりも胸に刺さる言葉を
新たに殺す孤独よりも君にわかる言葉で

愛を伝えたい
貴方が好きだから
誰よりも何時よりも
今日が一番綺麗な月だから

一番きれいな月の日に
独り言では届かない君に
今日こそ言おう、身違うような喜劇のように
今日は一段と、月が綺麗ですね


だって、十五夜ですから



***



夏は夜。月の頃は更なり。
月に少しでも近づきたい本能が、夏村懐をビルの屋上に誘っていた。
月は今日も綺麗で世界を暗く光差す。
月は今日も醜くて今日も世界を見下ろし嘲笑う。
陽はまた繰り返すように
月また沈み、月がまた顔を出す
昨日と少しだけ表情を変えた月が、笑う。
それが些細な日常で、人が泣き、笑うこととなにも関係がない。
つまらない繰り返し。何も変わらない日々。死んでいることと同じ、死への暗示。
人生に物語なんてものは何もない。すべての偶然は広い世界で言うところの必然で、人があなたが私がそれを知らないだけだ。
死はそこにある。
生きることは死ぬことだ。何時だって命は緩やかに死んでいる最中で、かと思えば次の瞬間に死んでいる。
真新しくもない、本質だ。
だから命を繋ぐことが人の本能であり、命を繋ぐことをしない人に生きている価値はない。まさに死んでいるも同然だ。
だが、繋がれた命であることも事実。

夏村懐は今日も死んでいた。きっと明日も死んでいるしこれからも死んでいることだろう。
金もないし女もいない。友達はいるけど少ないし、結婚したり転勤したりで暫くあっていない。
SNSとか嫌いで連絡もろくに取っていない。
人は一人でも生きている、それを体現しているかのような男だった。
どこにでもいる、ありふれた男だった。
起きているように死んでいる人たち。生きているように死んでいる人たち。
何も変わらない。



夏村懐に物語は無い。
ただ有り触れた日常の中で、気のふれた男の日常。
今宵、何時よりも美しい空の下でも、男は前を向く。
男はひとりだった。だから、その表情を見た者はいない。
届かない月を見上げる真似も、もうしない。
さようなら、零れた別れの涙が月の光で煌めいて。
でもただ、それだけだった。
そして男は昨日までと同じ歩幅で、また一歩を踏み出す。
空で、昨日と同じはずの月が、違う姿を見せているように。
同じ一歩でも意味が違う一歩を、夏村懐は踏み出した。



だけど決して、月には届かない。
届かないんだ。





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2014/09/08(Mon) | 小説・十五夜夏月様 | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
十五夜夏月様2014 まえがき
そういうわけで今年は結局「十五夜夏月様2013」の更新が無理そうです。
てか引っ越したりするので、ネット環境自体が怪しくなりそうです。たいへーん。

ならば逆手に取ってと、ちょっと変なことをやります。
小説とか買ったら、後書きとあるじゃないですか。
それの逆、小説書く前にコンセプトとか書いちゃう「前書き」ということで。
自分が「十五夜夏月様」という小説で何を書きたいのかというお話。



まえがき2013 十五夜夏月様



そもそも、このブログで描くオリジナル小説にはルールがあって
それは「物語を書かない」という言葉に収縮されるわけなんですが
それはつまり主人公がいてライバルがいてみたいな舞台を整えないってこと。
予告編なんか基本ネタに走っていて、言ってしまえばフリースタイル。
キャラも展開もセリフも思いつくままに描いて、
とりあえずと積み重ねた世界で何ができる?みたいな感じ。
初めから「コレを描く!」ってのは決めないようにしているんですね。
それはテーマとかじゃなくて伏線とか展開とかそういう話で。

七夕牡丹餅2012なんかもそのルールに従っていて、
オチなんか何も考えずに、だだーっと書いた代物です。
ただ、願いは込めた。それだけは外せない、もうひとつのルールでした。

七夕牡丹餅2012は、死ぬ気のない女性が自殺ごっこという茶番の中で
ちょっとだけ顔を上げる気分転換をする、そんな話です。
作中の織姫も最終的に顔をあげてもらえましたが、
書き始めはそんなことこっちも知りませんでした。

そんなわけで延期になった「十五夜夏月様2013」。
なんとなく最初に書いた十五夜夏月様2011が
ホラー・サスペンス調になったので、「感じ悪い話になるかなぁ」と思い
とりあえず同情に値しない奴を書こうと思って生まれたのが「懐」という男です。
彼は本当に気持ち悪い。
自己投影とかそういう次元じゃなくてもう生理的に気持ち悪い
たぶんおれが思う「死んだらいいのに」ってタイプを
無意識と意識ダブルで動員して殴り書かれた存在だと思います。

そんな彼で、何ができるのかな、と思った時、どうしても書きたい話がよきりました。
それはつまり、ガチで死ぬ気満々の人間を赤の他人に止められるのか、ってこと。

そこに物語はありません。ドラマなど必要ありません。
ただ、赤の他人が赤の他人のまま、赤の他人の自殺を止める。
そんなありえない、だけどありえなくてはいけない世界の話。

ここ数年、相当暗いところまで死というものと向きあったりしたりしてまして
どうしようもない後悔が進行形で続いてるものもあったりするんですけど
その中の一番でかい後悔はブツかる気力が振り絞れなかったってことがあります。
詳しい言及は逃げますが、とにかく、ブツからなかったら、ってことがあったんです。

だから、せめてブツかる話が書きたい。

正直、おれは「懐」というキャラクターについて
「死んでもいい」存在として、殺す気で描いています。
そういう気持ち悪さを描くためのダッチワイフとしての立場に、彼はいるのです。
だから、本当に「これは流石のキモ男でも生きようとしてみるわ」っていう流れを
止め手である織姫が生み出せない限り、奴は自殺します。絶対に殺します。

それでも願いレベルの話でいえば、
そんなキモい男でも救われるような世界であってほしい。
そう痛切に願うからこそ、絶対に殺すということ。
そういう向き合い方で、十五夜夏月様は描きたい。
ちょっと真剣に向き合って、できることならノンストップで
生まれた流れを「ボツ」にして書き直したりしない
取り返しのつかない事態に取り返しをつけない
だけど取り返しをつけたい、そんな世界を描きたい。

そんな感じなのです。
今殴り欠いても殺すだけになる。
だから。更新延期、なんですね。


正直なところ、賽を振る時は訪れ人生の岐路に佇む
今がそんな状態にありまして、結構色々な変化がこれから待っています。
このブログも、閉鎖というか移転してゼロから始めようと考えています。

それでもこの楼閣でその前にやり残したことがあるのなら
それこそがきっと小説「十五夜夏月様」。
その精神は「まだだ、まだ終わらんよ」

終わりが見えているところから、何を残すか。
そんな所信表明を今、今日という十五夜の日に、お約束したいと思いますわけです。



十五夜夏月様2014 
2014年9月8日更新予定



こんな寂れた場所で、あえて言います。
どうかご期待ください。
月が綺麗ですね。
続きを読む
2013/09/19(Thu) | 小説・十五夜夏月様 | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
死ねぬ思ふ躰投げて飛ぶ
ほら、世界はこんなにも素晴らしいが、そんなこたぁ知ったこっちゃない。
おれはそんな世界に背を向けて死ぬと決めたのだから。
男はいつだって負けて死ね。死んで馬鹿見た奴もおらぬ。
夢は破れているし、恋も破れているし、世間からもはぐれている。
生きる理由なんか家族とか綺麗ごととか並べていけば幾らでもでてくる。
それでも、死んだように生きるくらいなら、死ぬ為にこれからの人生を使いたい。
そんな言葉に踊らされて無様に死ぬ、そんな姿が俺には似つかわしい。
死ぬのは恥ずい馬鹿。それでもおれは星になる。
これは、懐(なつき)という男の死ぬ物語。
十五夜、夏のお月様が目撃者の月下自刃。そしてさよならだ。
今日という最後の出勤日に何事もなく仕事をすることで人生の象徴とする。




  ジ・エンド・オブ・サマーバケーション    
死 ね ぬ 思 ふ 躰 投 げ て 飛 ぶ




派遣先の職場で働く人を同僚と呼んでいいのかわからないけど、とにかく同僚の人が最近変だ。まず全体的に暗い。俯いているし目が死んでいる。かと思えば、どこを見ているのかわからない目で微笑む。もしくは表情が死んでいるのに声だけが笑っている。
あれは諦めから始まる何かを決めた眼だ。
いいや、何かだなんて漠然としたものではない。わたしがかわいこぶって目をそらしたいだけで、わたしはあの目の本質を知っている。
あれは、死に場所を探している人間だ。いつ死ぬか、それだけを求めて生きている人間の目だ。彼は、自殺を選択肢として数えている人間なんだ。
わたしは人生の中で、そんな目をした人間を見殺しにしたことのある人間だからわかる。自分の事を棚に上げて「今それどころじゃないから」「わたしも辛いから」と見捨てる行為を正当化する言い訳を必死で飾っていたら洒落にならない自殺を目の当たりにして後悔した、そんなどこにでもいる最低な人間だ。そんなわたしが、誰かの個性をどうのこうの言うなんて厭らしい。
人の脳裏が自殺がよぎるまで追いつめられた過程はきっと、その人の人生でありパーソナリティそのものだ。なのに人はわたしはこれから、それを自殺という行為そのものを否定するだけで重ね合わせて否定する。
スカートの中を覗きやがった野郎が鼻で笑ってくるみたいに下世話で最低な行為だと思う。だけど、わたしはそれをすると決めた。見過ごせないわたしの問題でもある。
これは場違いな織姫が立場をわきまえず諦める事を匙投げる、そんな酷い話だ。
それでも、わたしは彼の自殺を止める為に動く。だって何かがあってからじゃ遅いから。
別に好きでもない男だ。飲み会で世間話を流した記憶ぐらいしかない相手だ。
だけど、そんな人間だからこそ、わたしがそんな人間だからこそ、彼を救うために舞台に上がる。赤の他人が余計なお世話で哀しい人を死なせないと邪魔をするのだ。
いつもは猿に倣う、たとえ人間以下でも今日は人間の本能で自殺を否定する。
そんな世界じゃないと、何時まで経っても世界に救いがない。夏のお月様に満面の笑みで鼻笑いされるのはもううんざりだ。
彼の個性を悔やまない私が、それでもその死を妨たげる。
たとえ、その死を止めることができないとしても。



人は自殺を否定し、自殺を肯定する。
人は死を肯定し、死を否定する。
全て刷り込みだ。退屈の合間のオシツケられたシツケだ。
死の本質を識ることは死の本質であり、死の本質は死だけにある。
人は死ななければ死を理解できない。故にメメントモリが限界の人生。
イツダッテアナタハシヲオモッテカッテニシニサラセ。
だから、問題は死ではない。そんなものを問題にしても始まらない、
人はいつだって、死ぬための物語だから。
それでも。それでも!


小説・十五夜夏月様
更新・延期予定路線



たとえ、そんないつかが来ない方がよいとしても。
2013/08/31(Sat) | 小説・十五夜夏月様 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
盆暮れ争奪
これまで、本当にありがとう。
本当は両親や兄、家族に謝罪するところから始めるのがスジなのかもしれんけど
まずはじめに、友達や、なかまや、すきなひとたちに感謝をするところから始めたい。
そりゃ感謝なんて偽善で自己満足、唾棄すべき誤魔化しに逃げている、きっと事実や。
こうやって、言葉を飾り言い訳がましく自分をよく見せる言葉を選ぶことは
十分に最低や思うし、それ以前に、これからおれが行う最低な行為は
もはや誤魔化すことのできん自殺行為やな。というか自殺やから。
それでも、そういう行為だってきっと、言葉を尽くすってことやから。
だからおれはこの遺書について、感謝の気持ちから言葉を綴りたい。
こんなおれに、笑顔をありがとう。こんなおれなんかに、優しさをありがとう。

愛情があった人、ありがとう。
それでもおれは、死を選びます。



盆暮れ争奪



思い返せばこれまでの人生は、当たり前だが思い通りにいかないことの連続やった。
自分の能力には、きっと自信がある。
そこらの雑魚を見下せるだけの結果も出してきたはず。
それでも、そこらの雑魚を振り払う、それだけのことがおれにはできんかったな。
引っ張られた脚が引き千切れるんちゃうか、それだけの恐怖で身が竦む。
そうして、脚を引っ張られない道を探す、立ち止まる、前へ進まない。
そうやって道端の糞を避けながら行く道が、おれの人生やったかもしれん。
それで培われた能力もあるやうな。
誰にも頼らず自力で捩じ伏せることにかけちゃ、おれはきっとぶっちぎりやよ。
手段さえ選ばなければ、おれはなんだってできるし、どんな無茶もしてきた。
それでも、きっとおれのおれであるヘボさは隠せんかったろう。

そりやあ上ッ面はぶっちぎりやで。いまのみてくれなんかハンパなくキてる。
でも中身がない。逃げるからな。なんかもう、逃げ道しか探してへんからな。
やさしいひとは居たよ。おれなんかに興味をもってくれたひともいたんやろ。
だけど自分ばっかりに必死な俺は、なにも返せないまま終わってきた。
そうやって、ひとと距離を保つことで、中身を覗かれないようにする。
してきたんやわ。それがおれの間違いやった思う。
でもな、なかみ出したら駄目なんよ。そら嫌われたりするのが怖いってのもあるよ。
でもそれ以上に、がっかりさせたないから。期待を外したないってな。
それが、きっとおれにとっての、プライドって言葉の意味やった思う。
結局は、どこにでもある理由やね。すげえありふれたやつや。


おれは、もうつかれた。


こういうことを言うのも、この前、職場での会話の中で
その日の帰り道に、気づいてしまった答えがあるからかもしれん。
自殺のニュースとかあるやんか。いじめとか空っぽすぎる言葉並べてさ。
自殺の原因とか、すげぇ真面目な顔で語ったり、
もしくは死ぬ気でやればなんちゃらとか、死ぬことなかったとか。
そういうの見聞きすると、いつも納得できん感情があったんよね。
うまく言葉にできんだけで。
せやけどそれも先日までの話で、今はもうはっきり言葉にできるんやわ。
自殺する人の気持ち、いまのおれははっきりとわかるで。

ひとはな、これ以上頑張りたくないから、最後の頑張りで死ぬんや。

ほんま、それだけなんよ。
昨日ガンバってさ、その前も頑張ってさ、
それでもリセットには程遠い程の課題があって。
全てがリセットされるゼロなんて、ほんま遠くにあるにも限度があるで。
しかも実際ゼロにたどりついたとしても、そこから新たにスタートせなあかん。
頑張った結果、ゼロまでたどり着いて、今までの頑張りがカラッポへの道やったとか
そんな残酷な話、絶望とかちゃちぃ言葉がお似合いすぎる無様や思うわ。
甘えた考えとか、甘えとか言うひともおるわ。しっとるわ、そんなひと。
そこなんやわ、うんざりさせるにんげんってやつは。
自分を否定されたないからって理由で、人を否定する感じ。
辛い言うてるのに、そんなん大したことないとかさ、まじ殺す言葉なんね。
えぐいなんてもんと違う。みんなそうとか言うけど、じゃあ助け合おうよ。
舐めることで簡単に忘れられるキズやってあるんやから。
せやかって、大したことのない傷でもえぐられたらハンパなく痛い。わめく。
そんな感じや。
ひとのことをわめかせといてさ。弱音を吐くなとかよく言うわ。
そんなんさ、何もするな言うてるのと一緒やん。死ねいうてるも同然やん。
努力しろ、でもお前のがんばったことに価値はない、認めない。
おまえなんざただの雑魚で、知らんけど出来たんやから大したことなかったんやろ。
だからいちいち腐るな、うじうじ言うな。黙って次のことしろ。ってか。
長いわ、二文字でまとめろ。
ああ、死ねってことな。
せやかて、そんなんでひとは死なへんよ。うんざりするだけで。
でもな、疲れるわ。疲れたわ。これ以上は無理や。
だから、死ぬわ。そういうこと。



ありがとう。
これは遺言やなくて遺書や。
別になんも中身なんかないし、具体的な恨み事なんか名指しにすることもせぇへんよ。
期待してたら悪いけど、そういうゴシップ的な話をする気はない。
ただ、おれは必死に頑張ってここまで空っぽになって、それで限界やったってこと。
ここからひとつひとつ色んなものを取り込んで満たされてく、そんな人生が待ってる
それが約束されてても、やっぱり今死んでしまいたい。
約束なんて今のおれは鼻で笑ってまうわ。
今なら悲しむ人なんて、知れてるし、その知れてる人の哀しみが、おれにとって最後の救いでもあるから。
死ぬわ。ほんま、もう無理。
くたばれって思うやつらが全員くたばってくれるならともかく、
それがないなら、やっぱおれがくたばらなあかん。それがスジや。
そんで、それがおまえらの望んだ世界で未来でスジってやつや。

がんばれとか、あまえとか、たいしたことないとかよぅ言うてくれたな。
お前のことやぞ、ひとの頑張りを煙たい目で見てくれたお前のことや。
はっきり言うとくけど、おれをころしたんはお前らやからな。
おれのことを都合悪い奴みたいに言うてたお前、理解できへんなら、おまえもしねよ。
理解する努力をする気もないなら黙ってろ。
おれにおれをころさせたんはおまえらや。
おまえらの言うとおりの人間になろう思ったら、死ぬしかないんや。
おれに存在してるな、言うてるようなもんやねんから。

まじもう、うんざり。
そんなん相手にしてるのもういやや。
つかれました。

おれめっちゃがんばった思うよ。
あとはおれのいなくなった世界で
おれの頑張りに気づく日々でも過ごしてください。
大丈夫やって、みんなで助け合えば余裕やから。

そんで覚えとけ、
みんなで助け合えば余裕なことを一人の個人に押しつけてた事実を。
しっかり覚えとけ。そんで疲れたら死ね。いいよ、死んだらええんよ。みんな。
だからがんばれるんや。


とりあえず、おれは死にます。
疲れたし、がんばって希望も何もない事実に疲れるし。
振り返れば何も残ってない事実に、また疲れるしな。
ほんま失ったもんばっかしや。なんにもないな。

さようなら。
だいすきな人たち、だいすきです。




小説:十五夜夏月様2013 
2013年9月19日更新





死ぬならせめて、月よりも綺麗な満月の夜がええ。
それぐらいのスポットライトは浴びて、しにたい。


2013/08/15(Thu) | 小説・十五夜夏月様 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
七夕牡丹餅2013 ~ハローグッバイ~
もしも願いがひとつだけ叶うならば、愚かな私は願いの叶わない世界を願う。
私の願いはいつだって波乱万丈、ドラマに満ちたストーリーのヒロインであること。そんな世界に見合うだけの才覚を、美貌を、そして精神を磨くことが私の人生だったから。

だけど、そんな世界が来てはいけない。
だってそれは、誰かの不幸の上に立つ世界だ。
私という個性が英雄になる環境は、それだけで暗い世界である。
思うに希望とは、絶望を言語化しなければ成り立たない言葉から、意志だから。
私は私の願いが叶わない世界を心から願う。

だって私は、世界を滅ぼせるほどの希望になれる存在だから。
だから人は、絶望を織り紡いだような私を捕まえてこう呼ぶんだ。

魔王と。



七夕牡丹餅2013 ~ハローグッバイ~


追いかけているのか、引きずり込まれているのか。
目の前に駆ける親子を殺しに行こう。その子供の未来を断つために私はツケ狙う。
殺さなきゃいけない。どいつもこいつも生まれてはいけない子供だらけ。喜びも、悲しみも、何もかもがくっそくらえ。表裏一体の裏を押しつけられたものはたまらない。
河岸の川。決して魔が渡れない一線を越える前に。殺す。だってほら、ぶっちゃけ殺意一つさえあれば、くっだらない物語なんて簡単に成立するんだから。
ほら、きみも夜の街に出て、ナイフを握りしめてみろよ。それだけでアドレナリンは無駄にほとばしるから。殺すぅ?
「おとうさんおとうさん!まおうがついてきているよ」
「いいや、こどもよ。それはただのへんしつしゃだよ」
「おとうさんおとうさん!まおうがまほうをつかうよ」
「いいや、こどもよ。それはただのナイフの煌きだよ」
「おとうさんおとうさん!」
「もしもしわたし。いま、あなたのまえにいるの」
出会いがさようなら。それゆえに私は魔王。あらゆる未来を経ち続ける。
なぜなら私は未来がわかるから。
それは予知ではないし預言でもない。むしろ推理に近い把握。現在を掌握することで世界を支配する、それが私を魔王たらしめる由縁だ。
ひとつ簡単な未来を教えてやろう。七夕の夜、日本では雨が降る。
そうさ、世界なんて所詮はそんな安っぽいティーターン、茶番なんだ。
あなたは他の日、私は今宵に殺しに行くよ。血の川を越えて。
もちろん父親が家に辿り着く頃、その子供は死んでいた。
なぜなら私こそが、魔王ガールだから。





子供が殺された。赤の他人の子供が、殺されてしまった。
目の前で、おれの女だった女がおれを罵り倒す。
人を人殺しみたいに言ってくれるが、義理のない相手を見殺しにしただけだ。
「…おれの子供じゃねーし、だからって殺そうと思って死なせたわけでもないよ。だっておれが殺そうと思っているのは、いつだってお前ひとりなんだからな!このクソビッチ!!」
馬鹿なら虎も獅子。だが俺は人間だ、嘘偽りで俺の子だと托卵されて笑顔なんかキープできない。ましてやご奉仕など!!まだ他人から始まったほうが愛情だって注げるもんだ。
ぶっちゃけ殺意一つさえあれば、くっだらない物語なんて簡単に成立する。安い理由と、容易い自由。人が別れるために出会うとは、どこかの誰かもよくぞ言ってくれたものだ。
おれも、こいつと別れるために出会ったんだうな。
おれが血に染めた女、自分の血に染まる女、恨み辛み妬み嫉む女。我ながらくだらない男を自負しているおれだが、それに人生を台無しにされたコイツも相当だ。
そりゃあ、この女の知人友人家族の数だけ擁護はできるだろう。だがそいつも所詮は恥の上塗りに過ぎない。
思い出せよ人間。おれらはいつだって、殺すことで生きる殺し屋だろうが
この女もそうさ。最初はオレのことを褒めそやしたもんだぜ。おれは魔王なのにな。
なんて素敵な人なの。いいえ、それは魔王です。
なんて優しい人なの。いいえ、それは魔王です。
運命の人?確かにそうかもな。魔王的な意味で。
その時、風が吹いた。おれは死んだ。知らない女が立っていた。
「そうか、あんたがおれの魔王か」
しんだ俺の亡骸を、抱きしめてくれる父さんすら、おれにはいなかった。


※※


不思議なお姉さんと出会った。
世界には簡単な死が満ち溢れていることを知ってしまった、あの旅行の後で、学校に行く気にもなれず、日々を無駄にしていたおれに訪れたささやかな出会い。
全身に血を浴びながら、優しい笑顔でおれを守ってくれたお姉さん。
「にんげんのにくは小さくてまずいんだ。だからひとは大きな牛や鯨を食べるんだよ。でも最近じゃ、人と家畜の区別もつかなくて、自由と理由の区別もつかなくなった。理由なき自由、それが街には多すぎる」
「おねえさんの言うことは、いつもいみわかんないね」
「ふふ。意味不明なことを笑顔で言って、少年をたぶらかすのが、お姉さんの仕事だからね。うふふふふ」
一年前のおれなら、このおねえさんをイカれていると避けたことだろう。
だけど違うんだ。まともだから狂うんだ。イカれてるってことは、目をそらすって事と同じ。考えれば分かることを試さない人たちと、試さずにはいられなかった狂人と。
マトモッテ何サ。
マザファカとかもういい。ジーザスとかシットとかぐらい知ってる。
もっと汚い言葉が欲しかった。現実を言葉にする、腐った聖書が読みたかった。
「きみには未来がないね。殺す価値なんか、全然ない。だから、それがいい」
家族旅行で行った某国で、家族が殺されるところを見た。家族が人を殺すところを見た。人は人を殺すもんだと知った。
これは、そういう前提の物語なんだ。


※※※


星の川を挟んで対峙する。
星は命で、命を紡げば、それは川だ。
女の名前は夏月(なつき)で、男の名前は懐(なつき)、少年の名前は夏生(なつき)。殺された子供の名前候補も菜月(なつき)があって、殺された女の旧姓は夏木(なつき)だった。
もちろん悪い冗談だ。
七夕牡丹餅、過去を食い散らかして未来を願え、前へ進め。
殺すのは誰だ殺されるのは誰だ、殺すのはなぜだ殺されるのは慣れた。
生きるのは何故か。
これはあなたに問いかける物語ではない。むしろ逆。
問い詰めるのは未来で、恋焦がれるのは間違い。
私、織姫は壊れてしまった世界を乗り越えて、今という未来に立って明日を目指す。
会えないかもしれない保険に頼るのはもう辞めだ。
会いに行く言い訳に従うのはもう辞めだ。人が生きるのは何故か。
その夜はいつだって未来で、その夜はいつだって過去。
私に言わせればあいつだってあいつだってあいつだって私の彦星だ。人ごみこそが、私の行く手を阻む天の川だ。
知ってしまった。それだけで始まる物語がある。
絶望と後悔と、ささやかな今を抱いていく先の未来で、私は本当の意味で私になる。
どれだけ環境がクソで、声だけしか届かない笑顔だったとしても、届け、笑え。
たとえ出会いが別れの始まりだとしても、きっと別れは次の出会いの約束だから。
約束を果たしに行くよ、会いに行くよ、終わらせやしないよ。何もしないで終わらせることもできるよ。簡単にできたよ、そればっかりやってきたよ。
それでも今日は、今日という日だけは、私が私を奮い立たせる記念日なんだ。今こそが、またがんばると決めた今なんだ。
見せてやるよ、本当の物語というやつを。
ものがたりものがたり、まおうがおいかけてくるよ。
いいえ、まおうの時間はもう終わりです。これからは、人間の時間。
殺意なんて簡単に転がっている。そこに目を向けるでも、逸らすでもない答えを出す時が来たということ。安い殺意の物語を殺す物語、即ち魔王の所業。
魔王ですね、それがどうした!私が織姫だ!!私は紡ぐぞ未来。止めるぞ、くだらない脳内葛藤を、欺瞞を、停滞を。
なんてことはない。ただ、笑顔ひとつで軽くなる世界を知っているから。




小説:十五夜夏月様 
2013年9月19日更新




それは言うまでも七夕牡丹餅延長戦。
決戦は十五夜、立会いは夏のお月さま。
戦いの相手は、報われない願いとお団子大戦争。
やぁ、次に出会うときが、本当の意味でのさようならだ。
2013/07/07(Sun) | 小説・十五夜夏月様 | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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