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第三十五話 死守とミッドナイト・ラン
(第一話~第三十話はコチラ)
(第三十一話「死心死体の女」はコチラ)
(第三十二話「殺すロックオン、任せて」はコチラ)
(第三十三話「大事な存在を再殺せんとする強い意志」はコチラ)
(第三十四話「武装錬金エンバーミング」はコチラ)

それではオリジナル武装錬金小説、「武装錬金ビフォー.」第三十五話です。
続きを読むからどうぞ。
終わりの始まりが、今始まる。

桜花は丸腰で駆けていた。傍らにあるべき御前の姿もなく、ただひたすら一人駆けていた。
絶望を仲間に伝えるために。予期していた最悪が音連れて訪れてしまったことに。
駆けることしかできない自分が嫌で、それでも駆けるしかできなくて。
ただ思い出すだけでも哀しい、母殺しの後に起きた絶望を思い出すしかできなくて。


母殺しの果てに、流した涙を拭って、ようやく。
目の前に顔のない月が立っていることに、気がついた。
「むーん、儚き哉、人生!」
お前が、お前が言うな!



第三十五話 死守とミッドナイト・ラン



希望はあった。
ハッピーエンドを知る者ですら、考えだにしていなかった希望がついに語られた。
だが語られた場所は、真に希望を必要とする者たちが戦っている場所とは遠く離れた場所。
それでこそ真実が本当に必要な場所で転がるなんてまずないのがこの世界、だとしても辛い現実。理想に立ちふさがってこその現実。しかし、理想を追わずして何が現実か。
ヴィクトリアが津村斗貴子に伝えた希望は、まだ微かに燻ぶる光であり、その熱はまだ届く距離に限りがある。だがしかしでもそれでもけれども。

あそこで希望を無作法に物語へ挟み込んだのには理由がある。
もちろん、更なる絶望の連なりを語るためだ。
ニュートンアップル女学院で語られた希望は、オバケ工場を救う魔除けにはならない。
戦いは未だ終わらない。救いをもたらすのは真実を知る者ではない。
もしかすれば、救いが与えられるのはいつだって、絶望を抱えて走る者だけかもしれない。


錬金術の闇の世界は、そうそうたやすく断ち切れるモノじゃない。
育ての親との再開はよりにもよって、親殺しの後に実現した。実現してしまった。
桜花が顔を上げたとき、目の前の絶望景色は、更に惨状を地獄色に染め上がっていて、ただ驚くしかできなかった。立ち尽くすしか、できなかった。まるで自身の死を目の前にした人が、そうするように。
いつの間に“昇っていた”のだろうか。母を殺すのに必死で気がつかなかった。
目の前には空、彼女のよく知る月がいた。

その可能性は、始めは考慮に入れていたはずだった。
だが、目の前にいるはずのない母という惨事が、子供たちから冷静さを奪う。
物語の全てにはいつだって必然性が伴う。考えればわかったことだ。
ただの嫌がらせの為に、わざわざ早坂真由美をホムンクルス化して大量配備する必要はない。
木を隠すなら木、ホムンクルスを隠すなら、ホムンクルス。月が雲隠れるは空の中。
ムーンフェイス新月が一体。壊れた早坂真由美の残骸の中から立ち上がる。
桜花はまた膝を突き、そして折れかけた心を支えるのに必死である。
心では動かなければいけないことは理解している。だから御前様が必死に桜花を急かす。
だが、今の桜花にはその声すらも届かない。
二人に会話はなく、ただ静寂だけが夜にふさわしい静けさが沈黙があるだけだった。
腕を上げれば矢は放たれる。なぜならそれがエンゼル御前の特性だから。だが、それができない、腕が重い。重い思い想い!
それは虚ろ。目の前に死が立ちふさがったとき特有の無力感、虚無感、絶望感。戦わないと、この事態を秋水クン達に伝えないと、なんとかこの場を凌がないと!!
頭ばかりがぐるぐる回る。なのにどうしてこの躯は動いてくれないのか。ああ、なぜなぜ。

ムーンフェイスの狙いは明らかだった。それはつまり各個撃破。早坂の母も、剣持真希士も、全てはただ戦力を分散させるための存在。月は気づいたときには既に昇っているもの。月が昇るとはつまり、夜の始まり、死者の時間。死ぬのは誰か、錬金の戦士か。
オバケ工場とはつまり、オバケを量産する死舞台。ひとつでも確実に多くの核鉄を奪うためのアトラクション、アミューズメントパーク。笑えない!
施設の目玉は月という偶像(アイドル)と、剣持真希士という虚構(マスコット)。そんな二つの障害を乗り越えるためには、この早坂の世界に多くの人員は避けない、それは言わば当然の前提条件である。
母の形をしたホムンクルス有象無象に配備できるのは多くて二人という読み、ムーンフェイスの思い描いたそんな願い通り、目の前にいるのは早坂桜花ただ一人という今が現状。剣持真希士はうまく戦っているようだ。時間を稼ぐには絶望こそがふさわしいのだから。
核鉄ひとつは、ムーンフェイスにとってそれすなわち30に等しい。
ムーンフェイスはただひたすらに核鉄を求める、錬金術師。

こうして、オバケ工場の扉は月によって塞がれた。お帰りいただくわけには、まだまだ参りませぬ。
通常であれば、黒幕とは最深部にいるものかもしれない。それが突入するものには先入観として存在している。セオリーとはそういうものだ。だがセオリーとは、破られるためにある。
ムーンフェイスは、ここに新月が一人。そして、無音無動作での発動、展開。
桜花の目の前に並ぶ死の月が30。
閉ざされた桜花。何も見えない聞こえない、暗闇と絶望の世界。
見えるのは滅びの月だけ。凶星堕ちるまで、あと刹那。
「桜花!動け桜花、立て桜花!!桜花ッ!!」
喉を精一杯張り裂いて、御前様がわめく。
その時だった。

「・・・・ッ」

「むぅん?!」
五月蝿くわめく御前様ではない声がした。
桜花の声でもない。ムーンフェイスに向けて発せられた声でもない。
この場に今誰がいる。
早坂桜花。御前様。ムーンフェイス。
そして、もう一人。いた。


扉は、今、本当の意味で壊される。
気がつくと桜花は立ち上がっていた。
涙が、彼女を照らしていた。
その瞳に映るのは月ではない。愛しい母の姿。
やるべきことは理解した。覚悟の意味を真に理解する。


「逃げ・・ナ・さい・・・、桜花。・・・ココは、危ない・わ」


死者の声は、確かに辺りに響いていた。
そう、あの日、消え往くドクトル・バタフライが見せた最後の言葉のように。
母は化け物かもしれない。人間に戻ることなどできるはずのない姿をしているかもしれない。だがそれでも、母の愛は母性本能は、奇跡として、バケモノの欲望を乗り越える。
母は、どこまで逝っても母なのだから。母はいつだって、子供のために自身の体を犠牲にする。
あのひとはたしかに、そんなおかあさん、だった。


希望はあった。
ハッピーエンドを知る者ですら、考えだにしていなかった希望は既に語られた。
だが語られた場所は、真に希望を必要とする者たちが戦っている場所とは遠く離れた場所。
それでこそ真実が本当に必要な場所で転がるなんてまずないのがこの世界、だとしても辛い現実。理想に立ちふさがってこその現実。しかし、理想を追わずして何が現実か。
ヴィクトリアが津村斗貴子に伝えた希望は、まだ微かに燻ぶる光であり、その熱はまだ届く距離に限りがある。
ニュートンアップル女学院で語られた希望は、オバケ工場を救う魔除けにはならない。
戦いは未だ終わらない。救いをもたらすのは真実を知る者ではない。
救いはいつだって、戦っている者にのも与えられる、形を変えた栄光という言葉。
ならば駆け抜けろ、この戦場を駆け抜けて魅せよ。
この月下、夜が舞う空の下で、何度でも走れ。
涙はきっと風が拭ってくれるから。


その矢を放っているのは母の想い。
その矢を放っていたのは娘の想い。
砕け散るからだを起こして、残された母の腕に、エンゼル御前の弓を装着させて。御前様が矢をただがむしゃらに放つ。
30の月の行進を止めることはできないが、ただ時間を稼ぐ愚行かもしれないが。それでも。
桜花は最も辛い選択をしていた。
全てに背を向けた上での、逃走だ。
核鉄を捨てて、母から背を向けて、御前様に別れを告げて。
それがどのような意味を持つのか、理解している。
ムーンフェイスにひとつ核鉄を与えるだけで、この戦いが確実に追い詰められてしまうことも理解している。御前様はヤバくなったら自動で解除されるからこそ、絶対に核鉄がひとつ、ムーンフェイスが手に渡ることになる。
それでも桜花はその道を選択した。生きて戦う道を選んだんだ。

ただ、ひたすら仲間の元を目指して走った。
今、誰かホムンクルスと出会えば確実に殺される。
それでも、彼女にできることは今、走ることだけ。
仲間に何が起きたのかを、伝える。ただ、それだけだ。


迫りくるムーンフェイスとの決戦、だがその前に。
剣持真希士の問題に、決着をつけるときがやってきた。
その顛末をもって、終わりを始めたいと思う。
タイムリミットはそう。月が駆ける彼女に追いつくまで。

ただひたすら夜明けを目指して。
もう一度、物語が少しさかのぼる事を、どうか許してもらいたい。



(第三十六話「沸き立つ死(前編)」へ続く)







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2008/08/31(Sun) | 小説・武装錬金B. | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
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