FC2ブログ
第三十六話 沸き立つ死(前編)
(第一話~第三十話はコチラから)
(第三十一話「死心死体の女」はコチラ)
(第三十二話「殺すロックオン、任せて」はコチラ)
(第三十三話「大事な存在を再殺せんとする強い意志」はコチラ)
(第三十四話「武装錬金エンバーミング」はコチラ)
(第三十五話「死守とミッドナイトラン」はコチラ)


それではオリジナル武装錬金小説、「武装錬金ビフォー.」第三十六話です。
続きを読むからどうぞ。





地獄は先ず語られた。
ここからは地獄に足を踏み入れて、そして蜘蛛の糸を垂らす物語になる。
疑いを抱く者に、救いは無い。

「ふざけんなよてめぇ!!」
斗貴子とヴィクトリアが最終決着の趣を見せていた頃、桜花が月に背を向けてひたすらに走っていた頃、違う場所では犬飼が確信と共に吠えていた。というかキレてた。キレていた。
そこに続いたありえない言葉に、真希士を囲んでいた全ての戦士は、その血に染まった手を止めることとなる。
いや、それだけではない。ありえないことがここで起こる。
あろうことか、真希士までもが、その四本の腕を止めていたのだ。
ありえない状況を生み出したのは、言葉だった。
犬飼がその後に続けた言葉は、彼らの時を止めるのに十分な言葉だったから。
「てめぇ、生きる気ねぇだろ!死ぬために戦ってんじゃねえよッ!!」
真実は地獄に潜む。それを希望に変えることのできる者など、そう多くはいない。

真実それは、剣持真希士の、まさかの正気。
その時、戦士たちの前にいたホムンクルス・真希士は、正気を取り戻していたということ。
そして同時に彼は、ホムンクルスと成り果てた自ら存在という業を理解してたということ。
故に、故にだ。
彼が望むのはただひとつ。
彼なりに救いと信じた、エンバーミング。

地獄は語られた。
それではなぜそうなったかの道のりを語るとしよう。
時は、物語は今再び巻き戻る。



第三十六話 沸き立つ死(前編)



出会った三人は気がつけば戦っていた。それが戦士にとってあるべき生態ででもあるかのように。そんな、止めることのできぬ、罪深き衝動を否定することなどできる戦士はいるだろうか。剣持真希士、中村剛太、早坂秋水。描くスリー・ウェイ・ダンス。まわる。まわる。まわる。
「殺ろうと思わなければ、意外と二人だけでも戦れるもんだな」
全身を鎌居達に通り魔されたかのように、体中を細かい傷でまぶした剛太が自虐的に笑う。もちろん全てかすり傷、血が流れる深さもない傷ばかりで、致命傷などを食らう不覚は犯していない。
そしてこれこそが剛太の戦いの真のスタイル。彼の頭の中で歯車が噛み合うその先で待つのは、いつだって血の代償であるということ。頭の歯車を円滑に回すのは油ではなく、いつだって血、なのだ。
高速度の世界に生きる者は、その速度の代償を覚悟して駆け抜けて。
確かに自身の高速は無敵の矛となりうる。だが、その代償は大きい。高速とは、相手にも無敵の矛を与えてしまうものだ。速度による攻撃は、その速度に合わせた反撃によって死ぬ。致死のカウンターを呼ぶのは、いつだって迅い者だけ。それでも、それを知っているからこそ、死を見極め、恐怖を殺さねば戦えない。
それがそこがそこらかしこが、剛太のいる、たたかいのせかいだ。
歯を食いしばってでも、今はまだ手を離してはいけない、世界。
故に剛太はブレーキという概念を脳から取り払う。
加速。加速。加速。サード。セカンド。トップ。オーバー!!!
「確かに。それに二人というのもなかなかに戦りやすい」
秋水、動きはあくまで最小の剣舞。W武装錬金、ソードサムライW(ダブル)X。
無駄のない動きはそうだ、流水の如きささやかさも無く、飾り気の無い微動だ。
隙とはつまり相手の動きと自分の動きの和差積商。駆け抜ける風は今にも泣き出しそう。
それでも風の声が聞こえる。うたごえがみみもとをかけぬける。
それはつまり波風立たぬ水面の様に、だからこそ体で波紋を感じる余裕があるということ。
それはつまり、強さ。強くなったということ。
秋水は仲間を得ることで、彼に欠けていた余裕というものを修得した。
つよいぞ、今の彼は。なぜなら静寂さを意図してわきまえることができているのだから。
「ッぬぅわぁあああああああああ!!!」
剣持真希士が駆る四本の腕と織り成す二本の西洋剣。
対するは二枚の歯車と二振りの日本刀。
これは尊皇攘夷の戦いではない。これはシンプルに罠。
それはまさに狩人を待つ猟犬のように、獲物を足止めするための戦い。
「右に駆けろ!!!」
そこに犬飼、戦部、合流!!!
待ちわびた!!

犬飼の「駆けろ」という言葉は明らかに剛太への指示であった。
それ以上の言葉は要らない。
絶妙のタイミングでタイミングを外された真希士の上体が剛太の方へ泳ぐ。
そこをついたのは秋水の逆胴。真希士のガードは刹那で間に合ったが、その衝撃は真希士を一歩後退させる結果を作るに十分だった。だがそれがいったい何だと言うのか。その程度でこの壁を越えられると言うのだろうか。
壁は高いだけではない。はるか遠くにもあった。
敵は四歩本腕二刀流の剣持真希士。
だが勝機の鍵はいつだって、壁にかかっている。


もしも、だ。
真希士を壁まで追いやることができれば、それは勝機となるだろう。巨大な西洋剣は、壁際において明らかな不利を生むことになるのだから。
たとえ壁をものともしない力を持ってしても、壁を切り裂く刹那は達人同士の戦いによって致命的なロスに繋がる。ましてや真希士の腕の内の二本は背中から生えている。
身動きが取れない狭い空間で、最も邪魔なのは常に自身の体なのである。故にだ、壁まで追い詰めるコトができれば、真希士の剣を折ることは願いや希望といった言葉を越えて、勝機へと形を変えるだろう。
と、ここまでは理論として誰もが気付くことである。
だが肝心の壁まで追いやる術を、誰も持たない。強固な城とも言うべき達人の間合いは、それを犯すだけでも命がけだと言うのに、それを力づくで押し出すなど、考えただけでも肝が冷える愚挙暴挙だ。
そもそも押し出しは裸一貫の強き者だけに許された奥義である。
真っ向でも横槍でも、四方に死角の無い真希士を一方へ押し出すなど、いかにすればいいと言うのだろうか。
故に真希士は斃せない。証明完了だ。

だがちょっと待ってほしい、思い出してほしい。
現状は、そんなくだらない『自制理論』の先に進んでいるということを思い出してほしい。

現状、既に一歩押し出すことに今、成功しているのだ。それは人類にとって大きな一歩ではない、だが彼らにとっては重大な一歩であった。
真希士を一歩分押し出したのは秋水の逆胴ではない。きっかけは犬飼の、声。


「待たせたな」
犬飼が仲間に見向きもせずに声だけを届ける。答えて剛太、必要最小限に。
「いや、そうでもないさ、助かった。あとも頼む」
剛太が圧倒的なホムンクルス・真希士に対して見出した勝機の要は、犬飼であった。
それも、犬飼の武装錬金、キラーレイビーズではなく、犬飼という戦士。
かつて、犬飼は彼の武装錬金を語るとき、こう言った。
「さっき安全装置を解除した。こうなったらもうボクにも止められない!」
そう、彼は制御していたのである。あの狂犬を二匹も!!
そう。勝機は、ここにあったんだ。


反撃の狼煙が静かに煙り始める。
そこらかしこに広がる勝機。

だが。

剛太たちの勝利とはつまり、剣持真希士の敗北を意味している。
戦士にとって敗北は死。ホムンクルスにとっても、敗北は死。
戦士でありホムンクルスでもある、剣持真希士。
大切なのは、勝つことではない。
勝つことの意味を、今一度だけ、揺り起こそう。



誰かが叫ぶことになるだろう空の遥かで。
願いは祈りでは決して叶えてもらえない。
救いは信じる者に垂れ下がるようなモノでも、無い。

祈りは信じるコトは、願いや救いが目の前にようやく現れた時に必要になる、断ち切らないように繋ぐための、キズナ。
キズナはいつだって、信頼と信念によって紡がれる相互理解。


さあ、墓を掘るときだ。
全てを踏まえた上で墓を掘るときだ。
救いは彼に無く、見つけたはずの希望も彼の者には届かない。
抗(あらが)え愚かな人間たちよ、逝きとし生ける運命の踊り手人形たちよ。
死にたいのなら死ねばいい。殺したいのなら殺せばいい。
だけど、本当に死にたいのか。本当に殺したいのか。

これから語るしばしの物語は、楽園を夢見た戦士に手向こう。
彼の死を。
どうかここからの地獄送りが、剣持真希士とって優しく暖かいエンバーミングとならんことを願って。


この先、死は確実に訪れる。
生きるための死が、彼の者に、予定調和の死が、違う形で。
そして、描かれなかったその先が描かれるときも、ホラすぐそばに。

そんな全ての儀式は、狩りと敗北によって開かれる。



(第三十七話「沸き立つ死(後編)」へ続く)







スポンサーサイト



2008/09/23(Tue) | 小説・武装錬金B. | トラックバック(0) | コメント(0) | page top↑
コメント
コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
→http://exedge.blog15.fc2.com/tb.php/597-7511916c
前のページ ホームに戻る  次のページ