第三十九話 黒く死に熱く死に甘く死ね

(第一話〜第三十話はコチラから)
(第三十一話「死心死体の女」はコチラ)
(第三十二話「殺すロックオン、任せて」はコチラ)
(第三十三話「大事な存在を再殺せんとする強い意志」はコチラ)
(第三十四話「武装錬金エンバーミング」はコチラ)
(第三十五話「死守とミッドナイトラン」はコチラ)
(第三十六話「沸き立つ死(前編)」はコチラ)
(第三十七話「湧き立つ死(後編)」はコチラ)
(第三十八話「a BOY」はコチラ)


それではオリジナル武装錬金小説、「武装錬金ビフォー.」第三十九話です。
続きを読むからどうぞ。





目の前にいる、死を渇望する相手
真希士を前にして剛太に湧き上がった思いは、怒りだった。
そんな剛太に、真希士は必死な表情で決定的な言葉を綴る。はっきりとし諦めの言葉を。
「頼むっ、殺してくれ!今なら人間の心を持ったまま逝ける、だから頼む!オレの中の人喰いを抑えていられる今のうちに、オレが誰かを食べる前に!たのむ!!!わかるんだ、それもじきに限界がくると。もしも目の前に欲情を煽る存在が現れたら、きっともう我慢できないから、だから!!」
たのむ。
人間として、戦士として殺してくれ。せんしとして、にんげんとしてしなせてくれ。

―――ふざけるな。

全てをかき消す勢いで、剛太が、爆発する。
死を望み全てをただかなぐり捨てようとしている相手を止める言葉は、そう。
怒りだ、もう怒りしかない。
「てめえ、ッざけんなよッ!!!!」
怒りは天を突く。



第三十九話 黒く死に熱く死に甘く死ね



剛太には、真希士の言葉に怒る理由があった。怒りを止められないだけの、理由があった。
あわや特攻せんとする勢いの剛太の手を、秋水がなんとか掴み止める。
だが剛太には止まらない怒りがあった。全てを諦めた者に対する、純然たる怒りが!
剛太に見えていたのは、もはや真希士だけであったのかもしれない。
わき目も振らず叫ばずにいられなかった。怒りが、彼を叫ばせていた。
「ッオレの戦友に!殺しても死なないバケモノになったヤツがいる!それでもそいつは自分に人間が残っている限りあがき続けると決めて、最後の最後まで足掻き戦い続けたぞ!!」
静寂の中で、ただ剛太だけの声が響く。口を挟める者などこの場にはいない。
そうして幕を上げた言の葉の一枚一枚はまさに、彼がずっと溜め込んでいた気持ち、そのものだった。


あの日、抱いた疑問。敵は殺すと当たり前にしている錬金戦団。
俺たちとどちらがバケモノか。
その答えは見つかったのだろうか、どうなんだろうか。
それを剛太は口にはしない。決して。
だが、口にしないと収まらないこともある。あるんだよ、くそったれ!
「あんたは今、人間の心が残っているまま死にたいと願い、俺たちに殺すよう望んでいる。確かにそれであんたは救われるかもしれない。確かにそうすればあんたが食うであろうはずだった、そんな人たちの命も救われるかもしれないさ。なあ!」
それがきっと戦士として当然の選択。ホムンクルスは、誰であれ罪。有無を言わさず殺す。誰であれ、人間でなくなった者に容赦はいらない。殺す。殺す前に殺す。殺す。殺す。殺せ!
剛太は顔に血管を浮かべたまま前のめりで首を振る。
「それでもオレはっ、オレはそいつを許すわけにはいかない、いかないんだっ。オレは、それを許すわけにはいかないんだよ!……もう一度よく考えてみろ…。お前はそうやって死んだとして、それで…残された者はどうなるかわかるか?!!」
それは剛太だからこそ吐ける言葉だった。彼は、あの少女をいつだって胸に秘めて想い慕っているんだから。あの残されたかなしいひとを。だってそうだろう。残されたひとの悲しみに、救いなんかはどこにも無いってことを剛太はよく知っている。もしも救いがあるってんならだれか教えてあげてくれよ、きっと彼なら今すぐにでも実行するからさ。でもないんだ、ないんだよそんな方法!ないんだよどこにも!
「オレ達はもう知ってしまったんだよアンタの事を。ブラボーにだって報告してる。お前を救うために今ここでこの手にある武装錬金で殺したとして、残るのはホムンクルスと化した哀れな戦士を殺したという記憶だけ。オレやそこの早坂の姉弟や御前様や、それにキャプテン・ブラボーはどんな悲しみを背負うことになると思ってやがる!!」
キャプテン・ブラボー。ブラボーは、真希士の上官でもあり師匠でもある、尊敬に値する漢だった。
プラボーの名が、さらに真希士の表情を悲しみで彩るそれだけで、真希士のブラボーへの気持ちが伝わる。いつだってブラボーは家族を無くした戦士の拠り所であろうとする優しさがあった。だってそれが、守るということだから。守れなかった真希士、戦士にとって死は当然の運命。怒ってなどいない、ただただ悲しくて今にも泣きそうな顔になるだけ。
真希士とて錬金の戦士。ブラボーのことはよく理解している。だからこそ!
「なおさらだ!ブラボーにホムンクルスになっちまったオレ様なんか見せたくねぇんだよ!頼むよ、殺してくれ!!それがオレにとって今ある、唯一の救いなんだから!!」
「良いから聞け、剣持真希士!!人を救うってのはそんなに優しい、甘っちょろいもんじゃあないんだよ!」
救う厳しさと辛さと悲しさと。涙と。出会いと別れと。涙と。
「オレは、俺たちは知っているんだ!一人の戦士の決断によって、救われた多くの命がうつむき悲しんでいるのを知っている!!聞けよ!別れに…、別れに救いなんてありえないんだよ!」
別れに救いなんか、ない。
ずっと、死ぬことの覚悟は戦士にとって当たり前のものだと思っていた。そして、戦士が死んでいくことに対する覚悟もまた、当たり前のはずだった。でも違うんだ。違うんだ。違ったんだ!断じて!
「このオレの命だって今なら戦団に救われたものだとはっきり言える。オレの家族はホムンクルスに殺されて、オレは一人残された。だから、夢も希望も願いもなく、ただ救われただけの命だって、ずっとそう思っていたよ!」
自分以外の「死」が、残された剛太にとっては重すぎた、とても重かったんだ。…だけど、それでも剛太は立ち上がった。立ち上がることができた。
「俺には、立ち上がることを教えてくれた人がいる。俺を救ってくれた人がいたんだ。だから俺でも、こんな俺でも立ち上がることができた」
救ってくれたのは他の誰でもない、「斗貴子先輩」だ。
剛太は止まらない。そしてここにいる誰にも彼を止める理由なんかなかった。
「思い出せよ剣持真希士!!今のお前に必要なのは安らかな死でもましてや美しい死化粧なんかでもないだろ、戦士・真希士!!お前にとって倒さねばならない存在はなんだ?!どうしても守りたい存在はなんだった?!お前は非力じゃないだろう、強いだろう!!だったら戦士として今やるべきことはなんだ、諦めて死ぬことか?違うだろう!!!立ち上がれよ、真希士!!戦士ならば、立ちふさがるすべてに立ち向かえ!!戦え!!!戦え!…逃げずに戦えよ!!!」
もう論理も何もないかもしれない。ただの叫びだった。善か悪かの問題ではなかった、ただ叫ばずにいられなかったんだ。
あの夏、目の前で一心同体の二人を見ているのは辛かった。その二人は全てが上手くいかなかった時、互いが本当に死ぬ覚悟をしていた。自分がどれだけ覚悟を重ねようと、二人の間に入れないのが辛かった。できたことといえば、傘に割り込むことぐらいだったよ。
それでも。
それでもっ。
それでもっ!
真希士も叫ぶ!
二人は言葉で殴り合っていた。
「だが、オレはもうバケモノなんだぞ!既に死んでしまった命でもあるッ。もう人間には戻れないんだ!!」
剣持真希士も自身が信じる救いを諦めない。今の彼にとって唯一の希望は死にあるんだ。
「あんたはまだ、バケモノじゃない。人間の心が残っているだろうが!」
「その心がもうもたないから言っているんだ殺してくれと!!頼む!殺してくれよっ!」
真希士は泣いていた。涙を流していた。声がうわずっていた!!
「もうオレはすでに一度ホムンクルスに負けて死んだ命なんだ!お願いだから、殺してくれ!!頼む、錬金の戦士っ。それがお前たちの使命じゃないのか!?」
死を願う戦士の姿があった。
違う、それは戦士のあるべき死に様なんかじゃない。戦えよ、希望を手放すなよっ。どれだけ絶望が重くのしかかろうとも、そこで俯いたら何も始まらないんだ!幇助してもらっての自殺を「戦って死んだ」なんて言う者はいない。戦って死ぬとはもっと罪深くて、暗い闇に包まれた底にある絶望的な結果なんだから!。死を覚悟するとは、死を望むこととは意味が違う。死ぬために戦う者を誰も戦士とは呼ばない。戦士にとって死とはあくまでも、結果論であるべき物語なんだ。だから。死を望み全てをただかなぐり捨てようとしている相手を止める言葉は、そう。
怒りだ、もう怒りしかない。
「馬鹿野郎!!!お前は!負けを悟ったらすぐ死を選ぶのか?!本当にそんなくだらねぇ潔さがお前の信念か!!答えろ、剣持真希士!!!!お前はそんな諦めのいい戦士だったのか!?」
いつだったか、ブラボーとムーンフェイスのやり取りの中を思い出そう。
―――…諦めが悪いね。そう言えばホラ。最初に始末した君の部下も諦めが悪くて難儀したね。
―――そうか。アイツは諦めが悪かったか…。最後まで強き意志で戦い抜いたか!
そうだ、思い出せ!!そしてふざけたお月様に今度こそ思い知らせてやれ!!!錬金の戦士がただの戦士ではないことを!!!!
「戦えよ、全ての衝動と戦えよ!確かに残酷かもしれない、救いがないかもしれない。けどな、戦士は人間として死ぬもんじゃないんだ。バケモノとして死ぬんでもない。戦士は戦士として死ぬもんだ、そうなんだろ?!」
剛太がうつむき、拳を握る。きっと哭いているのだろう。思えばあの海の日から今日まで、彼もまたとても辛い思いを抱えてきたのだ。
言葉が途切れる。静寂が流れる。
心音だけがこだまする。
剛太が許せなかったのは、真希士が諦めていたことだった。
「…諦めるな、武藤が言ってくれた言葉だな」
心を打つ言葉がある。秋水にとってのその言葉は、今呟いたあの日の言葉だった。
剛太が、搾り出すように言葉をつむぐ。
「頼むよ、オレもつきあうからさ…。取り返しがつかなくなるギリギリまで…、もう少しだけ頑張ろうぜ……っ」
もう非力に涙するのは嫌だから!!



ドクン。




鼓動が脈動が耳を塞ぐ。
その先にあるのは、罪深いだけの衝動。
「それでもオレは…ッ!!」
そのとき、新たな乱入者が丸腰で現れて叫ぶ。
「罠よっ!ムーンフェイスは、入り口に!!」
「ッ姉さん!?」
ここで桜花が到着する。
その言葉が意味することを居並ぶ戦士たちが理解していく中で、御前様のいない姉を秋水が気遣う中で、真希士は目の前の桜花というニンゲンが意味するモノを衝動として理解していく。

ホムンクルスの好みも人間と大差なくてな。より瑞々しく若々しい方が美味しいとかなんとか。


それは、最悪のタイミングだった。
葛藤する真希士の視界に現れたのは早坂桜花。
そのとき、ひたかくしにしていた願望が欲情が再び揺り起こされる。


とてもやわらかくて、おいしそうなおにく。おんな。くいたいな。


視線を感じて、桜花の体が強張る。
全身を視線で嘗め回されているのを理解する。
足を腰を躰を指を胸を顔を唇を耳を瞳を髪を。


ドクン


喰いたい。

ドクン。

喰イタイ。喰いたい。

ドクン。ドクン。

喰いたい。喰いたい。喰いたい。喰いたい。

ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。


あの足をしゃぶり尽くして腰に手を回して躰を弄んで指を舐め輪姦(まわ)して胸を揉みしだいて顔を苦痛に歪ませて唇を奪って耳を甘く噛んで瞳を閉じて髪を優しくすいて。犯したい。

喰わせろ!!!



(第四十話「デイ・アフター・ファイナル」に続く)



言葉では救われない。救われない行為がある。
救いはいつだって、過ちの先にあるとしても。
罪深いほどに、黒く甘く熱い味わいを味わってはいけない。
欲望への敗北それは、死ねと言われても仕方のない過ちか。
魅入られてはいけない、虜になってはいけない。
犯した先に、幸せな結末は決して訪れない。










2008/10/21(Tue) | 小説・武装錬金B. | トラックバック(0) | コメント(2) | page top↑
コメント
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圧倒されました。小説そのものが『叫んでいた』。

主人公とは、物語の中心に立ち物語に影響を与える存在。とか何とかが昔ジャンプの漫画講座に書いてあった気がしますが、まさにそれを実感しました。登場人物皆がカズキを考え、思い、カズキと繋がっていました。今まで一度もこの小説内でカズキは現れていないのにも関わらず。存在感抜群の主人公だと思います。

そして今まさに桜花が、真希士に『いだだきまぁず』されそうになっていますけど。このまま安易に晩餐で絶命勝負されるとも思えないし、剛太その他が止めに入ったりとか、直前で衝動をこらえるとか、色んな展開が想像できる分まとまらなくて予想付かない。ハンターを読み終わったときのようなもどかしさがたまらないです。次回はまだでしょうか。

長文失礼しました。
最後に、『ごぢぞうざまでじだぁ』
by: 折り紙 * 2008/10/22 00:07 * URL [ 編集] | page top↑
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どもです、思いのこもったコメントに感謝す。
だからこっちも思いをこめて。


>叫び
これは嬉しいコメントでした。
と言うのも、「良い実況」ってヤツを文章に取り入れたいと目論んでいるんですね。
それはつまり、ワンサイドに偏った立場からの第三者目線。
公正な神気取りの文章がなんだか苦手なんで、
気がつけば海外サッカーの実況張りに
偏った目線ってヤツにむしろ憧れるようになってましたわけで。
第三者目線でどこまで自分の視線とか考えとかを入れられるのか。
目標はなんといっても司馬先生。あの人の筆力マジ半端無い。
歴史を見てきたのかって思わされる説得力は本当に鳥肌ものです。
あの人、DISる時はとことんDISりますものってばよ。

>カズキ
カズキンは、やることやり尽くして月に行ってくれましたんで、
こっちとしてもいい感じにインスピを発展させやすくて助かってます。
しかしホント、これだけ武装錬金小説書いておいてアレですけど、
自分はカズキってほとんど描いたことないんですよね。
かたやあれだけ描いても存在感の無い秋水クン。流石主人公は違いますなー。

>妖怪腐れ外道
当サイトもハンターハンターシステムを採用しているので、
突然休載したり、その間に作者が免許取りに行ったりします。
勿論その間マキシは妖怪腐れ外道状態で放置プレイです。
流石にそれは酷すぎますので、近いうちに更新したいと思っていますよう。
思うだけでお約束しないのは、死亡フラグ阻止のためです。
いやホント。約束しちゃうとそれどころじゃなくなるぐらいに
ありえないトラブルが発生する自信があるのですよ。

一時間単位での予定がありえないトラブルで狂うここ毎日人生、明日なんて、ない!


でも、今回の展開は予定通りです。構想通りとも言います。
良い感じに物語が進んでいていい感じです。
by: EX’el BLUE * 2008/10/22 22:29 * URL [ 編集] | page top↑
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